米価騒動と農水省幹部人事:次期次官レースの行方

令和に入ってからの「コメ騒動」を巡り、農林水産省内部では混乱が続いている。前大臣である江藤拓氏が失言問題で更迭されたことに加え、彼は以前から部下に対して厳しい姿勢で知られていた。折からの米価高騰という状況もあり、省内には張り詰めた空気が漂っていた。ある幹部は「大臣への説明(レク)で資料をめくる音を立てただけで睨まれるなど、気が休まる時がなかった」と当時の雰囲気を明かしている。

米価騒動と農水省幹部人事:次期次官レースの行方農水省の小泉進次郎大臣が政府備蓄米を使ったおにぎりを試食する様子

小泉農水相の政策転換

小泉進次郎氏が新たな農林水産大臣に就任し、世論からの期待は高まっている。しかし、農水省にとっては、一つの困難が去ったかと思えばまた新たな課題に直面する状況だ。小泉大臣は就任早々、政府が備蓄しているコメの放出方法について、従来の一般競争入札から随意契約へと方針を転換させた。さらに、米価が十分に下がらない場合には「無制限に放出する」と発言し、価格への口先介入を行った。

米価暴落への懸念と省内の課題

小泉大臣による備蓄米放出方針を受け、農水省内では密かに米価暴落への懸念が広がっている。大量の備蓄米が市場に流入する可能性に加え、2025年産のコメは前年から40万トンの増産が見込まれているためだ。もし米価が大きく暴落すれば、農業団体からコメの買い入れを求める声が上がることが予想され、農家の経営救済など、新たな対応に追われることになる。

農水省次官人事の焦点:渡邊氏去就と次期候補

こうした混乱の中、今夏に控える農水省の幹部人事において最も焦点となっているのが、小泉大臣が主導する「米対策集中対応チーム」のトップを務める渡邊毅次官(昭和63年入省)の去就だ。次官就任は昨年7月であり、本来であれば来年の夏まで続投すると見られていた。しかし、ここにきて7月の参院選前に交代するのではないか、との観測が強まっている。渡邊氏は次官就任前は農地集約などの改革で手腕を発揮したが、事務方のトップに立ってからは人が変わったように部下の意見を聞かなくなり、ピント外れな指示を出すなど精彩を欠く場面が見られるようになったという。このため、省内からも交代を望む声が上がっているのが現状だ。

次期次官の有力候補としては、長井俊彦官房長(平成2年入省)を同期である杉中淳経営局長が追う展開となっている。しかし、長井氏は「典型的な調整型で突破力に欠ける」(元農水省幹部談)と評されており、現在の荒れた情勢には不向きとの見方がある。一方、杉中氏は農水省では珍しく、経済産業省の官僚のような派手で動き回るスタイルを持つとされており、このような「戦時」においては彼が司令官として抜擢される可能性も残されている。

結論

農水省は、米価高騰から一転して暴落への懸念に直面しており、新たな小泉農水相の政策がその行方を左右する状況にある。このような混乱の最中、事務方トップである渡邊次官の早期交代説が浮上しており、次期次官を巡る人事レースが熱を帯びている。省内からは、現状を打開できるリーダーシップを持つ人物が求められており、次期次官人事が今後の農水省の方向性を決定づける重要なポイントとなるだろう。

参考文献

文藝春秋編集部, 「霞が関コンフィデンシャル」, 月刊文藝春秋 2025年7月号掲載記事を基に作成.