女優の今田美桜(28)がヒロインの朝ドラ「あんぱん」。最新話で主人公・若松のぶの夫、若松次郎(中島歩・36)が危篤となり、SNS上には心配の声が広がっている。次郎役の俳優、中島歩はその存在感で視聴者を引きつけており、今回、制作統括の倉崎憲チーフ・プロデューサーが、中島の魅力や起用理由、知られざる制作秘話について語った。
作品背景と中島歩の起用
「あんぱん」はやなせたかし氏と妻・暢さんをモデルに、中園ミホ氏のオリジナル脚本で激動の時代を描く。中島歩の朝ドラ出演は「花子とアン」以来11年ぶり、脚本・演出も同作と同じ布陣だ。今回演じる若松次郎は、主人公・のぶの夫で一等機関士。父親はのぶの父・朝田結太郎の知人で機関長であり、次郎自身も結太郎と船上で会ったことがある。戦争が激化したため、次郎は貿易や旅行ではなく、兵隊や軍需物資を運ぶための航海に出るようになった。
倉崎CPは中島起用について、自身が入局5年目に監督デビューした山形発地域ドラマ「私の青おに」で中島が力を貸してくれたこと、そして「花子とアン」チームとの縁を挙げた。「右も左も分からない僕の監督デビュー作に力を貸してくださった感謝もありましたし、『花子とアン』で中園さんやチーフ演出の柳川監督たちとのご縁もあってオファーさせていただきました」。
NHK連続テレビ小説「あんぱん」で若松次郎を演じる中島歩。キーパーソンである夫役の魅力に迫る。
史実判明とキャラクター造形秘話
実は、主人公のモデルである暢さんが戦前にお見合い結婚していた史実はあまり知られていなかったが、昨年、高知新聞社の記事でその相手が小松総一郎さんだったと判明し、広く知られることとなった。倉崎CPら制作スタッフは高知に飛び取材を行い、総一郎さんの職業(海運会社勤務)や趣味(カメラ)を脚本に反映させた。「総一郎さんのお写真を拝見すると、どことなく中島さんに似ていて、長身の中島さんなら機関士の制服も似合うなと思いました」と起用理由の一つを語る。
さらに、いわゆる「当て馬的」なキャラクターと思われないための説得力やリアリティーが、次郎役には不可欠だったとし、登場回数がそれほど多くないからこそ、「中島さんの個性や演技力に託しました」と明かす。実際、次郎は第37回(5月20日)で見合い、第39回(5月22日)でプロポーズ、第40回(5月23日)で再求婚・受諾と、わずか3回会っただけで“スピード婚”に至った。次郎が航海に出るため、結婚後も2人が一緒にいる時間は短い。それでも、中島は次郎の誠実さや懐の深さを見事に体現し、視聴者の心をつかんだ。
朝ドラ「あんぱん」第39話より、若松次郎(中島歩)が朝田家を訪問し、お見合いからスピード婚へ至る重要な場面。
この若松次郎という役は、中園氏が第5~6週の脚本執筆中に史実が判明したため、台本完成直前に急きょ誕生したという。倉崎CPは、もし史実が判明していなければ、のぶが戦前結婚していたことは描かれず、漫画家・やなせたかし氏がモデルとなる現在の夫、田辺(後の柳井)嵩が初婚相手ということになっていた可能性も示唆している。
若松次郎という存在意義
最新回(6月23日放送の第61回)、次郎は無事に生還したものの、海軍病院に入院し「肺浸潤」を患っていることが明かされた。肺浸潤とは、膿や血液など空気より密度の高い物質が肺胞内に浸み出した状態を指し、過去には肺結核の初期の状態を意味した。さらにこの日、彼が速記を習得していたことも判明。未来を見据え続けた次郎は、のぶの戦前・戦中と戦後をつなぐ“希望の懸け橋”となる存在なのだ。
若松次郎は短期間の登場ながら、その誠実な人柄と未来への希望を体現。史実に基づくキャラクター造形と中島歩の演技が、その存在に深みを与え、物語において重要な役割を担っている。