アドベンチャーワールドから中国へ パンダ返還、白浜町の今後は?

6月28日、和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドのジャイアントパンダ4頭が中国へ返還されました。長年にわたり「パンダのまち」として多くの観光客を引きつけてきた白浜町は、今後どのような道を歩むのでしょうか。現地で町民の声や町長の考えを聞きました。

アドベンチャーワールドで暮らしていた高齢の「良浜」(24歳)とその子どもたち、「結浜」(8歳)、「彩浜」(6歳)、「楓浜」(4歳)の計4頭が、6月末に中国・四川省成都にある繁殖研究基地へと旅立ちました。この突然の発表は、白浜町に大きな波紋を広げました。

町の高齢者は、アドベンチャーワールドのパンダの歴史を深く記憶しています。「パンダが初めてやって来たのは1994年でしたね。それから31年間で、ここで17頭ものパンダが生まれたんですよ」。白浜町のパンダは、長い間にわたり多くの人々に愛されてきました。

園の最終観覧日に通い続けたという50代の女性パンダファンは、特別な思いを語ります。「年パスを買って、仕事を休んで白浜に通っています。私は最終日まで14日間連続で通いました。パンダファンの間には『推しパンダ』がいて、一番人気は16頭の子どもをもうけた、今は亡き永明さん。みんな尊敬しているので、永明さんだけは『さん』付けで呼ぶんです」。

彼女は、まだ白浜のパンダがあまり知られていなかった頃のエピソードを話してくれました。「私と永明さんがパンダ舎の前で1対1になることもよくありました。そんな時、つらいことがあったんですってぼそぼそ言うと、永明さんは笹を食べながら『そうなんですか。それは大変でしたね。でも、つらいことがあったらここにいらしてください。僕はいつでもここにいますから』と言ってくれてるような気がして、すごく助けられたんです」。このように、パンダは単なる動物としてだけでなく、多くの人にとって心の支えとなっていたのです。

最終観覧日を迎えたジャイアントパンダ「彩浜」最終観覧日を迎えたジャイアントパンダ「彩浜」

このパンダたちの返還は、特に観光業に大きな影響を与えると懸念されています。アドベンチャーワールドから徒歩10分のホテル「クリスタルエグゼ南紀白浜Ⅰ」のフロント担当者は、現状についてこう話します。「当ホテルには様々なタイプがありますが、『エグゼ』というマンションタイプの部屋は、安いときは5000円ほどで泊まれるので、アドベンチャーワールドにパンダを見に来るためだけのお客さんには最適でした」。

返還が発表された4月24日直後は、10連泊などの長期予約の電話が常連客からひっきりなしにかかり、あっという間に6月28日とその翌日まで、全22室あるエグゼタイプが満室になったと言います。「その反動か、パンダが完全にいなくなる6月30日以降は予約がぽつぽつで、ゼロの日もあります」と担当者は嘆きます。幸い、このホテルグループには「別荘タイプ」のように、パンダに関心のない客層もゆっくり過ごせる部屋があるため、全体としてはなんとかなりそうですが、パンダ目的の宿泊に特化した部屋は苦戦が予想されます。

JR白浜駅前で食事やお土産を提供している店「まつや」では、パンダの顔が描かれたかまぼこが乗った名物「パンダうどん」(900円)が人気です。店長の北井さつきさんは、「いつもは1日3、4杯出る程度でした。ところがパンダの返還が発表されてから、ラストパンダを見ようと連日人が押し寄せ、1日20杯前後は売れるようになりました」と、直前の特需を振り返ります。お土産もそれまでの約10倍売れたとのこと。

パンダ関連の装飾や商品が見られる和歌山県白浜町の様子パンダ関連の装飾や商品が見られる和歌山県白浜町の様子

それだけに、パンダがいなくなった後の反動を怖いと感じています。「お客さんも売り上げも減るでしょう。けど、白浜には白良浜があったり、温泉があったりしますから。コロナで一気に売り上げゼロになったことを思えばまだマシです」。北井さんは、しばらくはパンダメニューやお土産をそのまま提供し続ける予定だと話します。「そして観光客の人には、『白浜には昔パンダがいて、子どもがいっぱい生まれて盛況やったんですよ』とか言いながら、〝メモリーパンダ〟で売っていくしかないですね」。

パンダたちの返還は、白浜町に経済的、感情的な大きな変化をもたらしています。しかし、町にはパンダ以外にも美しい白良浜や豊富な温泉など、魅力的な観光資源が数多く存在します。パンダとの思い出を胸に、白浜町が新たな観光の形を模索し、困難を乗り越えていくことが期待されます。