6月に公開された映画『国宝』は大きな話題を呼んでいます。主演の吉沢亮さん、ライバル役の横浜流星さんの演技が絶賛される中、SNSでは脇を固める三浦貴大さんの演技にも注目が集まっています。特に彼が演じる竹野という役は、登場シーンや台詞は少ないながらも、観る者に強烈な印象を残しています。本記事では、映画「国宝」三浦貴大さんが演じた竹野の演技がなぜこれほどまでに人の心を掴むのか、その魅力に迫ります。
映画「国宝」メインビジュアル：吉沢亮と横浜流星が歌舞伎役者を演じる
映画『国宝』における竹野の役割
吉田修一氏の小説を李相日監督が実写映画化した『国宝』は、歌舞伎役者の一代記を描く物語です。三浦貴大さんが演じる竹野は、歌舞伎の興行を手がける三友の社員です。
観る者を震わせる登場シーン
竹野の初登場シーンは非常に衝撃的でした。京座の舞台に立てると意気上がる喜久雄（吉沢亮）や俊介（横浜流星）に対し、彼は冷ややかに一瞥し、首を傾げながら冷笑します。その表情は悪代官を思わせる迫力があり、観る者の背筋をぞくりとさせます。喜久雄が問い詰めると、竹野は臆することなく本音を吐露します。「歌舞伎なんて、ただの世襲だろ。あんたは所詮よそ者。今は一緒に並べてもらっても、最後に悔しい思いして終わるのはあんただぞ」。歌舞伎界の血筋重視な側面に対する彼の冷たい視線と、芸の道を進む喜久雄への複雑な感情が入り混じります。淡々とした口調の中に狂気すら感じさせつつも、穏やかさや温もりも宿っており、喜久雄の将来を案じているようにも聞こえました。わずか数秒のやり取りながら、世襲制への批判と喜久雄への愛情の両方が伝わる、強烈なインパクトを残すシーンです。
節目で示される存在感と意味深な台詞
その後も竹野は、喜久雄が窮地に立たされた時や、「国宝」となった瞬間など、物語の重要な節目に随所に登場します。そして、短いながらも意味深な台詞を残していきます。特に印象的なのは、喜久雄が三代目を襲名した後、竹野が彼を「三代目」と呼ぶ場面です。歌舞伎界に批判的な目を向けていたはずの竹野が、喜久雄を一人の歌舞伎役者として、そしてその後継者として認めていることが伝わります。また、歌舞伎から一度姿を消し、辛い時期を過ごしていた喜久雄に対し、竹野が「元気そうだな？」と飄々とした様子で声をかけるシーンも心に残ります。そこには、朴訥とした竹野の人柄からくる温かさや優しさが感じられました。
なぜ竹野の演技は記憶に残るのか
竹野の登場シーンは尺が短く、台詞も一言二言で終わることがほとんどです。しかし、不思議なことに、映画を見終えた後も彼の登場したすべてのシーンと台詞が鮮明に記憶に残っています。SNSでも「竹野の台詞が良かった」「三浦貴大の竹野が忘れられない」といった感想が多く見られ、あらためて三浦さんの演技の凄さを実感しました。彼の台詞が記憶に強く刻まれるのは、その声質もさることながら、役柄や作品の世界観に完全に溶け込みすぎるのではなく、どこか冷静に、あるいは達観したかのように存在するその立ち居振る舞いにあります。歌舞伎界という特殊な世界の中で、部外者である喜久雄に冷ややかな視線を向けつつも、彼自身の複雑な心情を滲ませる三浦さんの繊細な表現力が光ります。役や作品に“食われる”ことなく、短い出演時間の中でも確かな存在感を放ち、物語に独自の深みを与えています。
三浦貴大さんが映画『国宝』で演じた竹野は、物語の中核に頻繁に登場するわけではありません。しかし、その短い出演時間の中に、歌舞伎界への冷徹な視線、主人公への複雑な感情、そして隠された優しさといった多層的な感情を見事に表現しています。彼の抑えた演技と的確な台詞回しは、観る者に強い印象を与え、物語の深みを増しています。主役二人の熱演はもちろんですが、『国宝』という作品を語る上で、三浦貴大さん演じる竹野の特別な存在感は欠かせない要素と言えるでしょう。
