今年の父の日、読売巨人軍の公式Xアカウントは、特別なメッセージを投稿しました。その投稿には、「今日は、父の日。あなたのお父さんとジャイアンツの思い出はありますか」という本文と共に、野球観戦する男性のイラストが添えられていました。イラスト自体は、自宅でくつろいで野球を楽しむ父親の姿を描いたものですが、そこに記された「父のキゲンは巨人が決めている」という一文が、予想外の反響を呼びました。この投稿は、多くのユーザーから様々な意見を引き出し、「炎上」状態となりました。
物議を醸したフレーズと投稿内容の分析
巨人の公式X投稿では、父の日を記念し、「今日は、父の日。あなたのお父さんとジャイアンツの思い出はありますか」という問いかけと共に、野球観戦する男性のイラストを公開しました。一見穏やかなイラストに添えられた「父のキゲンは巨人が決めている」という一文が、多くの人の解釈を変えることとなりました。このフレーズを見た多くのユーザーは、「ジャイアンツが勝てば上機嫌だが、負けると不機嫌になり、その負の感情が家族に向けられる」という状況を連想しました。つまり、親が自分の感情をコントロールできず、その機嫌によって家族、特に子どもが影響を受ける「毒親」の典型的な行動を想起させたため、大きな議論に発展したのです。
読売巨人軍が父の日に投稿した公式Xのイラスト。「父のキゲンは巨人が決めている」というフレーズが添えられており、ネット上で毒親に関する議論を巻き起こした画像。
SNSで露呈した過去の「野球と父親」のトラウマ
この投稿に対し、SNS上では瞬く間に様々な意見が飛び交いました。「自分の機嫌を自分で管理できないのは、まさに毒親」「子どもの頃、機嫌を損ねた父親に気を遣った記憶が蘇った」など、厳しい批判や共感の声が多く寄せられました。特に、自身の幼少期のつらい「野球と父親」に関する思い出を語る投稿が目立ちました。「父親がテレビのチャンネル権を独占し、好きな番組が見られなかった」「学校の先生までが、巨人が負けると生徒に当たり散らした」「テレビに向かって選手にひどい野次を飛ばす父親が嫌だった」といった具体的なエピソードが共有され、多くのユーザーがこうした経験に「いいね」やコメントで共感を示しました。これは、単に投稿内容への是非だけでなく、世代を超えて共有される「野球と父親」にまつわる複雑な感情が表面化した現象と言えます。
昭和の野球文化が育んだ「父親像」と現代とのギャップ
今回の反応の背景には、日本のプロ野球が圧倒的な人気を誇り、国民的な娯楽の中心であった昭和時代の社会状況があります。テレビが一家に一台という時代、父親が家庭におけるテレビの主導権を握り、プロ野球中継に熱狂する姿はごく一般的でした。応援するチーム、特に読売巨人軍のような人気球団の勝敗が、家庭内の雰囲気を左右することも珍しくありませんでした。こうした環境下で育った世代の中には、父親の機嫌に敏感にならざるを得なかったり、野球自体にネガティブなイメージを持ったりする人も生まれました。現在の20代~40代を中心とする子育て世代の父親は、多様な価値観や子育てに関する意識の変化もあり、こうした「野球の勝敗で機嫌が変わる」タイプは比較的少ないかもしれません。しかし、今回の投稿は、良くも悪くも強烈だった昭和の父親像の一側面を呼び覚まし、現代のSNS上で過去の経験に基づいた議論を再燃させるきっかけとなりました。
読売巨人軍の父の日投稿は、意図せずして多くの人の過去の経験や、親子関係における潜在的な問題に触れる結果となりました。「父のキゲンは巨人が決めている」というユーモラスにも捉えられかねないフレーズが、人によっては非常にデリケートなトラウマや「毒親」という深刻なテーマと結びついてしまう。今回の騒動は、特にSNSのような開かれたプラットフォームにおいて、特定の層にはポジティブな共感を呼ぶであろう表現でも、別の層には全く異なる、あるいは否定的な意味で受け取られうるという、コミュニケーションの難しさ、そして言葉や表現が持つ多層的な意味合いを改めて私たちに教えてくれる事例と言えるでしょう。