日本国内で流通する輸入冷凍食品に関する安全性が問われています。先日、『業務スーパー』が販売した中国産冷凍食品から基準値を超える残留農薬が検出され、自主回収となる事例が相次ぎました。これらの問題は、輸入食品全体の食品衛生管理における課題を浮き彫りにしています。
残留農薬や細菌汚染が報告された輸入冷凍食品のイメージ
厚生労働省が公表しているデータによると、2024年度だけでも輸入冷凍食品において168件の食品衛生法違反事例が確認されています。これらの違反は多岐にわたり、消費者の健康に関わる問題も含まれています。
厚労省データが示す輸入冷凍食品の違反実態
2024年度に確認された168件の輸入冷凍食品違反事例のうち、約3分の1にあたる60件以上が中国からの輸入品でした。違反が確認された品目は、ニンジン、ブロッコリー、タマネギなどの冷凍野菜が多くを占めています。食の安全に詳しいジャーナリストの小倉正行氏は、これらの数字について「中国産の冷凍野菜の違反が目立つのは輸入量が非常に多いことと関連しています」と指摘します。中国では生産過剰となった野菜を冷凍加工し、安価で大量に輸出する体制が早くから整えられており、日本の外食産業などで広く利用されています。しかし、その過程で日本では使用が禁じられている農薬が使われたり、残留農薬が日本の基準値を超えたまま加工されるケースが見られるとのことです。
大腸菌群検出、衛生管理の課題
農薬だけでなく、食中毒の原因となりうる「大腸菌群」の検出事例も多数報告されています。韓国産のチャンジャ、中国産のエビ団子、フィリピン産の切り身イカなど、80件以上で大腸菌群が検出されており、特に韓国、中国、東南アジア諸国から輸入された魚介類に多く見られました。小倉氏は、「これは現地の製造工程における衛生状態が不十分であることの強い証拠です」と述べ、日本国内で一定の冷凍技術を持つ食品工場が導入・徹底している国際的な衛生管理基準であるHACCP(ハサップ)が、中国や東南アジアの中小規模の事業者では導入が進んでいない現状を指摘しています。
危険な抗生物質と養殖現場の問題
さらに、ベトナムから輸入されるエビ類からは、EUで使用が禁止されているエンロフロキサシンなど、人体への有害性が懸念される抗生物質が検出されるケースが多く報告されています。小倉氏によると、過去20年ほどでベトナム南部のメコンデルタ地域を中心にエビ養殖が急速に拡大し、過密な養殖環境で病気が発生しやすくなっていることが背景にあると言います。生産性を維持するため、飼料に大量の抗生物質が添加され、これが多くの残留違反に繋がっている可能性が高いとのことです。
見過ごせない健康リスク:農薬、放射性物質
これらの食品衛生法違反事例に該当する食品を一度口にしたからといって、直ちに深刻な健康被害が生じるとは限りません。しかし、大腸菌群の中でも特に危険なE.coliなどに汚染された食品を、抵抗力の弱い子供や高齢者が摂取し感染した場合、命に関わる事態に発展する恐れもあると小倉氏は警鐘を鳴らします。
また、特定の農薬や化学物質の残留も無視できません。例えば、中国産の「菜の花」から検出された殺菌剤テブコナゾールは、動物実験で甲状腺や肝細胞に腫瘍を引き起こす可能性が示唆されています。同様に、中国からの冷凍ヤマモモで検出された殺菌剤ジフェノコナゾールも、動物実験による発がん性試験で肝細胞腺腫や肝細胞がんが認められています。
さらには「放射性物質」が検出された事例も存在します。消費者問題研究所代表の垣田達哉氏は、「2024年度にはスウェーデン産のビルベリーから、日本の基準値の1.6倍にあたる放射性物質が検出されています」と述べ、過去には基準値を超えたブルーベリージャムが市場に出回り、輸入業者に回収が命じられたこともあったと付け加えました。
これらの事例は、輸入冷凍食品の安全確保に向けた継続的な監視と、消費者自身の食品選択における注意の必要性を示唆しています。日本の食卓に並ぶ食品の安全性を守るためには、国内外の連携強化と基準の徹底が不可欠です。