北海道札幌市にある北海道大学の敷地内で、世界最強クラスの猛毒を持つ外来植物「バイカルハナウド（ジャイアント・フォグウィード）」とみられる植物が発見され、波紋を広げている。これは6月24日にSNS（旧X）でのユーザーの投稿によって明らかになったもので、「非常に危険」であるとして注意喚起が行われている。
バイカルハナウドはセリ科の多年生植物で、コーカサス地方や中央アジアが原産だ。19世紀に観賞用としてイギリスに持ち込まれて以降、ヨーロッパやアメリカ、カナダなどにその生息域を拡大させている。在来種を駆逐するほどの強い繁殖力を持つことに加え、その樹液には光毒性があり、皮膚に付着したまま紫外線に当たると重度の火傷のような炎症を引き起こす危険性がある。さらに、樹液が目に入った場合には失明に至る恐れもあるという。
世界最強クラスの毒性を持つ「バイカルハナウド」とは
植物繁殖生態学などが専門の昭和医科大学富士山麓自然・生物研究所講師である柿嶋聡氏はこのバイカルハナウドの毒性について解説する。「日本にも似たようなセリ科の植物はありますが、ここまで酷い症状が出る種類は聞いたことがありません」と同氏は述べ、他のセリ科植物や柑橘類にも光毒性を持つ物質が含まれるものがあるが、バイカルハナウドはその中でも特に強い毒性を持つ可能性が高いと指摘する。
この植物の危険性は海外でも広く知られている。イギリスの大衆紙『デイリー・メール』オンライン版が昨年7月に掲載した記事では、バイカルハナウドに触れて手の甲にオレンジほどの大きさの水ぶくれができた男性の写真を掲載し、その痛みが「まさに地獄」だったと伝えている。他にもペットの犬や小さな子どもが酷い火傷を負った例が紹介されており、「英国で最も危険な植物」としてその危険性を強調している。一度治癒した皮膚炎が再発する可能性もあるとされ、「毎年、子どもやペットを含む何千人もの人々が野生のホグウィード（バイカルハナウド）に誤って接触し、人生を左右するほどの怪我を負っている」と警鐘を鳴らしている。
北大構内での発見状況と大学・行政の対応
今回、北海道大学の敷地内で発見されたバイカルハナウドとみられる植物は、SNSユーザーの報告によると、JR札幌駅に隣接する北大キャンパスの南東側の道路沿いに《少なくとも10株以上は定着している》とのことだ。ユーザーが並んで撮影した写真からは、植物が3メートルほどの高さにまで成長している様子がうかがえる。
背丈が高く成長した猛毒外来植物バイカルハナウド
北海道大学の広報担当者によると、今回のSNSユーザーと思われる人物から連絡を受け、現在、大学の植物専門教員に調査を依頼しているという。調査結果の報告はまだ受けていないものの、すでに周辺の立ち入りを禁止する措置を講じたことを明らかにした。バイカルハナウドであることが確認されれば、関係機関へ報告し、今後の対応を協議する方針だ。報道によれば、当該の植物はすでに刈り取られたとのことだ。
一方、環境省北海道地方環境事務所野生生物課に確認したところ、これまでに国内で同種が発見された例がないため、「生態系被害防止外来スリスト」には含まれていないという。今後については、「情報確認してから対応を検討する」としている。また、道内の外来種を管轄する北海道の環境生活部自然環境局自然環境課も現在「情報収集中」だ。担当者は「初めてのケースで、外来生物法の規制対象にもなっていない植物というところで、健康被害のことを踏まえて注意喚起の必要がある」としつつも、具体的な注意喚起の方法については専門家や国の機関と確認しながら対応を検討したいと話している。
拡散の可能性と専門家が語る駆除・注意点
柿嶋氏は、今回の北海道へのバイカルハナウド持ち込みの可能性について、「あくまで可能性の話」としつつも、「海外から来た人の靴底や、あるいは牧草などに種が紛れるなどして、意図的ではない何らかの人間活動によって運ばれた可能性がある」と指摘する。
SNS上で似たような植物の目撃情報が徐々に増えていることにも触れ、今後は他の場所でも見つかる可能性があると警鐘を鳴らしている。「比較的涼しい場所に生える植物なので、暑すぎて東京には定着できないかもしれませんが、札幌以外でも北海道の別の場所や、本州の標高の高いところなどに、これから広がる可能性はあります」と柿嶋氏は述べた。
バイカルハナウドは一度に数万個の種子を生成することもあるため、「今のうちに駆除する必要がある」と強調する。在来植物の中にも似た種類があるため、「それらしき植物を見かけたら近づかず、公的な機関に確認してもらうなどが必要かもしれません」と注意を促した。開花時には高さが2〜5メートルにもなるため、比較的見つけやすい特徴があるという。
しかし、開花時以外は特定が難しい場合もあるため注意が必要だ。「バイカルハナウドは花が咲くまで何年かかけて成長しますが、それまでは低く葉を出すだけで、咲くときに一気に背が高くなります」と柿嶋氏は説明する。花を咲かせると、それまでに蓄えた栄養を一気に使い果たし、枯れて大量の種子を落とす。そのため、現在花が咲いている個体を伐採しても枯れるが、種子が残っていれば翌年以降に再び芽吹いて花を咲かせる可能性がある。「そのため、種も含めて駆除する必要があると思います」と述べ、花が咲いていない状態での見分けの難しさや、特に子どもにとっての危険性を踏まえ、植物全体に注意を払うことの重要性を強調した。
猛毒外来植物バイカルハナウドがこれ以上拡散しないことが強く望まれる。
