イスラエル入植者、ヨルダン川西岸キリスト教徒の村を襲撃:車両放火と脅迫的落書き

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸に位置するキリスト教徒の村タイベが、夜間にイスラエル人入植者による襲撃を受け、複数の車両が放火され、脅迫的な落書きが残される事件が発生しました。パレスチナ自治政府(PA)と目撃者筋が7月28日に明らかにしたこの事件は、地域における緊張の高まりを改めて浮き彫りにしています。

タイベ村での襲撃と住民の証言

今回の襲撃では、タイベ村の住民であるパレスチナ・テレビのジャーナリスト、ジェリーズ・アザール氏の自宅と車が標的となりました。アザール氏はAFPの取材に対し、「外を見ると車が燃えており、入植者たちが車と家に向けて何かを投げつけていた」と当時の状況を証言しました。車両は炎上し、村の壁には「アルムハイル、おまえたちは後悔することになるだろう」という脅迫的な落書きが残されていました。アルムハイルとは、今年に入植者による同様の襲撃を受けた近隣の村を指すものです。この落書きは、タイベ村も同様の運命を辿るという威嚇を示唆しており、住民に深い不安を与えています。

パレスチナ自治政府とイスラエル当局の対応

パレスチナ自治政府はこの襲撃に対し、直ちに声明を発表し、「イスラエルの植民地入植者」による行為であると強く非難しました。一方、イスラエルの警察と軍は共同声明で、タイベに派遣した部隊からの報告として、「パレスチナ人の車両2台が燃やされ、落書きがされていた」ことを認めました。現時点では容疑者の逮捕には至っていませんが、イスラエル警察は本件に関する捜査を開始したと発表しています。事件の背景には、この地域で頻発する入植者による暴力行為が指摘されており、国際社会からの監視と対応が求められています。

ヨルダン川西岸タイベ村でイスラエル入植者に放火された車両ヨルダン川西岸タイベ村でイスラエル入植者に放火された車両

国際社会からの非難と過去の暴力事件

パレスチナ外務省は、今回のタイベ村襲撃を「入植者によるテロ」と断固として非難しました。さらに、ドイツのシュテフェン・ザイベルト駐イスラエル大使も、自身のX(旧ツイッター)を通じて襲撃を厳しく批判。「こうした過激派入植者たちは、神から土地を与えられたと主張するかもしれないが、彼らはいかなる信仰からも許されない犯罪者でしかない」と述べ、彼らの行為が信仰の名の下に行われる犯罪であることを強調しました。タイベ村とその周辺地域では、ここ数か月間、入植者による暴力事件が相次いで発生しており、中には古代ビザンチン様式の教会への放火なども含まれています。これらの事件は、単発的なものではなく、地域の不安定化を狙った一連の行動である可能性が指摘されています。

タイベ村の背景と周辺コミュニティへの影響

タイベ村は、パレスチナ自治区で最も古いビール醸造所があることで知られていますが、同時に多くの住民が米国籍を持つキリスト教徒であるという特徴があります。この村が、度重なる入植者による襲撃の標的となっている背景には、宗教的、民族的な対立だけでなく、土地をめぐる複雑な問題が絡んでいると見られています。入植者たちはここ数か月間、タイベ近隣のコミュニティーも繰り返し攻撃しており、その結果、これまでに3人のパレスチナ人が死亡し、生活に不可欠な井戸が破壊され、少なくとも一つの牧畜民コミュニティーが居住地からの移住を余儀なくされるなど、深刻な人道問題を引き起こしています。これらの暴力行為は、地域の住民の生活基盤と安全を脅かし、深い亀裂を生んでいます。

今回のタイベ村への襲撃は、ヨルダン川西岸におけるイスラエル人入植者とパレスチナ住民間の緊張が、依然として非常に高い水準にあることを示しています。車両への放火や脅迫的な落書きは、単なる器物損壊にとどまらず、住民への直接的な脅威であり、地域社会の安定を著しく損なうものです。国際社会からの非難の声が高まる中、事態のさらなる悪化を防ぎ、住民の安全を確保するための具体的な対策が緊急に求められています。この種の暴力行為がエスカレートすれば、中東和平プロセス全体に深刻な影響を与える可能性があります。

参考資料