中国の圧倒的ミサイル能力に対抗 日本に求められる「地上発射型中距離ミサイル」配備論争

中国の軍事力拡大が続く中、日本はいかにしてその圧倒的な戦域打撃能力との格差を埋めるべきか。日米両国が直面する安全保障上の課題を踏まえ、特に2025年から2028年という喫緊の時間軸での日本の防衛力強化について解説する。本稿では、地上発射型中距離ミサイルの日本への配備がなぜ重要視されるのか、その戦略的な意味合いと現状の論点について深掘りする。この議論は、変化する安全保障環境における日米同盟の役割と日本の防衛能力向上において極めて重要な要素となる。

中国の圧倒的な戦域打撃能力と日本の課題

人民解放軍は、2030年までに中国本土から1400km圏内にある約4500カ所、そして3200km圏内にある約850カ所の目標に対し、それぞれ2回ずつ攻撃可能な圧倒的な戦域打撃能力を保有すると分析されている。この能力は、台湾有事のような緊急事態において、日米の主要な軍事拠点に壊滅的な打撃を与える可能性を示唆している。具体的には、沖縄の嘉手納、普天間、那覇といった主要航空基地に加え、九州の築城、新田原などの基地も、有事初期段階で一時的に使用不能となる危険性が高い。さらに、中国本土から比較的距離がある山口の岩国や青森の三沢といった本州の基地、そしてグアムやその西の海域に展開する米海軍の空母や強襲揚陸艦でさえも、相当な脅威に晒されることが懸念されている。この非対称的な能力差に対処するため、日本は抜本的な防衛戦略の見直しと能力強化を喫緊に進める必要がある。

日本の安全保障と関連する東アジアの軍事的情勢を示すイメージ。日米のミサイル防衛能力向上への取り組みを象徴。日本の安全保障と関連する東アジアの軍事的情勢を示すイメージ。日米のミサイル防衛能力向上への取り組みを象徴。

既存のミサイル発射プラットフォームの限界

日米は現在、LRASM(長距離空対艦巡航ミサイル)やJASSM(対地攻撃用ミサイル)のようなスタンド・オフ・ミサイルを運用しているが、これらは主に航空機や艦艇から発射される。航空機の場合、たとえ近傍の出撃拠点が破壊されても、空中給油機を活用すればハワイや豪州北部のような遠方の基地から作戦を行うことは技術的に可能だ。しかし、その場合、作戦テンポが著しく遅延することは避けられないという運用上の制約がある。また、航空機は一度に搭載できるミサイル数が限られており(例:B-1爆撃機で最大24発、F/A-18E/Fで4発)、弾薬を撃ち尽くした後に再び攻撃に参加するには、損害の少ない基地への着陸、ミサイル再搭載、そして再出撃という複雑なプロセスが必要となる。一方、イージス艦のような艦艇は、航空機より多くのミサイルを搭載できるものの、SM-3やSM-6といった防空ミサイルも搭載する必要があるため、搭載できるトマホークなどの対地・対艦ミサイル数は20〜30発程度に限定される。加えて、艦艇も原則として基地に戻らなければミサイルの再装塡ができない(洋上再装塡の研究は技術実証段階)。これらの既存プラットフォームの運用上の制約は、中国の圧倒的なミサイル飽和攻撃に対抗する上で、対処すべき重要な課題となる。

米国の国防予算対GDP比の推移を示すグラフ。日本の防衛費議論の参考となるデータ。米国の国防予算対GDP比の推移を示すグラフ。日本の防衛費議論の参考となるデータ。

地上発射型ミサイル配備の必要性

既存の空中発射型や艦艇発射型のスタンド・オフ・ミサイルに加え、地上発射型のミサイル配備を並行して進めることが、日米が直面する戦域打撃能力の格差を埋めるために不可欠である。地上配備型システムは、比較的迅速な展開が可能であり、多数のミサイルを比較的小規模な拠点で運用できる柔軟性を持つ。現在、米国ではタイフォン(トマホーク・SM-6用移動式システム)や、2025年にも配備可能とされる射程2800kmの極超音速滑空ミサイルLRHWダークイーグルなど、既に配備可能な地上発射型中距離ミサイルが存在する。日本は2022年の国家防衛戦略に基づき、12式地対艦誘導弾能力向上型などの国産ミサイル開発を進めているが、これらの米軍システムを日本に配備するかどうかについては、少なくとも公式にはまだ十分な議論が行われていないのが現状だ。日本の12式能力向上型が地上発射型の開発・生産を先行させている方向性は適切と言えるが、より多様で強力な地上発射オプションを迅速に確保するためには、米軍システム配備の検討は避けて通れない課題となっている。

中国の軍事力拡大がもたらす地域における戦力バランスの変化に対し、日本と日米同盟は効果的に対応する必要がある。既存の航空機や艦艇からのミサイル発射には運用上の限界が存在するため、地上発射型中距離ミサイルの配備は、中国の圧倒的な戦域打撃能力への抑止力として、また有事における継戦能力を確保する上で、極めて重要な選択肢となる。米国製のタイフォンやLRHWを含む地上発射型米軍システムの日本への配備に関し、安全保障環境の変化と喫緊の時間軸(2025-2028年)を考慮した、より踏み込んだ議論と迅速な意思決定が日本の防衛力強化と地域安定のために求められている。


参考文献

  • 村野将著『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』(PHP研究所)