今年、地下鉄サリン事件から30年を迎えるにあたり、オウム真理教の教祖・麻原彰晃氏（本名：松本智津夫）の三女である松本麗華さんを追ったドキュメンタリー映画『それでも私は Though I’m his daughter』が公開されました。この作品は、事件後の麗華さんが経験した差別や拒絶、そして父親の死刑執行後に浴びせられた誹謗中傷といった、厳しい現実を描き出しています。麗華さんは登壇イベントで、「加害者家族は被害者と比べられ、『お前なんで生きてるんだ？』と浴びせられ続ける」と、その長年にわたる苦しさを語りました。就職しても突然解雇され、銀行口座の開設も拒否され、さらには日本国外へ出ようとしても複数の国から入国を拒否されるなど、彼女が直面した困難は多岐にわたります。ABEMA Primeでは、罪を犯した本人ではないにもかかわらず、「加害者家族」として社会からの償いを求められ続けてきた、この30年間を松本麗華さんと共に振り返りました。
30年前の地下鉄サリン事件「本当に起きてほしくなかった」
松本麗華さんは1983年、麻原彰晃氏の三女として生まれました。1988年にはオウム真理教の富士山本部へ移り住み、教団内では「アーチャリー」という名を与えられます。1995年の地下鉄サリン事件発生後、教祖である麻原氏が逮捕され教団は解散しました。麗華さん自身はその後、教団の後継団体には関わらず、16歳で教団から距離を置きました。2004年には大学に進学して心理学を学び、2015年には本名で手記『止まった時計』を出版。現在は心理カウンセラーとして活動しています。
ドキュメンタリー映画公開に際し、語る松本麗華さん
地下鉄サリン事件について、麗華さんは「本当に起きてほしくなかった。あまりにも多くの苦しさやつらさを生み出した事件で、絶対に起こしてはいけなかった」と当時の思いを語ります。「虫も殺してはいけないという、仏教的な宗教観で育っていたため、実は人を殺していたと知っても理解できなかった」と、教義と現実の乖離に対する戸惑いを明かしました。
死刑執行後、父・麻原氏への複雑な思い
父親である麻原氏の死刑が執行されてからは、「そもそもなぜ教団を作ったのか。どういう教団にしたかったのか、そしてどうして事件が起きたのか。どんなことでもいいから知りたかった」と、事件の真相や背景を知りたいという思いを強く感じているといいます。事件の真相が完全に語られなかった理由の一つには、麻原氏の精神状態も挙げられます。「父と面会しても、一度も意思疎通ができなかった」と麗華さんは振り返ります。精神科医の中には、「あれは治療したら治る」と述べる人もいたため、「治して少しでも話を聞きたいと思っていた」と語りました。
逮捕直後には「見捨てられた気持ちもあった」そうですが、実際に面会を重ねるうちに、「目の当たりにすると、大きく温かい存在だった父はもういなくて、赤ちゃんみたいに守ってあげないといけない存在に感じた。壊れてしまった」と、その感情が変化していったことを明かしました。
加害者家族としての経験を振り返る松本麗華さん
松本麗華さんの30年間は、地下鉄サリン事件という未曽有の出来事によって引き起こされた社会の波紋の中で、「加害者家族」というレッテルと共に生き抜いてきた時間です。彼女の経験は、事件の被害者だけでなく、その影響が広範囲に及び、罪を犯していない家族をも苦しめ続ける社会の側面を浮き彫りにしています。ドキュメンタリー映画や彼女自身の発信は、こうした「加害者家族」が直面する困難と、事件から30年が経過してもなお消えない社会的な偏見や差別の現実について、私たちに問いを投げかけています。
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