児童生徒総数が減少する中、特別支援教育を受ける児童生徒は急増し、その数は10年で倍増しました。文部科学省によると、小・中学校の特別支援学級在籍者は2013年の約17.5万人から2023年には約37.3万人へと倍増しました。個々の特性に合った教育環境が整う一方、当事者は複雑な思いを抱えることがあります。ラッパー「札幌のギャグ男」さんもその一人。幼少期から学習やコミュニケーションに困難を抱え、いじめや「知能障害」「パニック障害」の診断を経て特別支援学級へ。著書『普通じゃない』から、彼が経験した「普通じゃない」日々の一部を紹介します。
特例支援学級への編入とその現実
中学1年生の夏、検査結果で「知能障害」と「パニック障害」と診断され、「小学3年生で知能が止まっている」と告げられたラッパー「札幌のギャグ男」さんは、特別支援学級に通うことになりました。登下校の時間は他の生徒とずらされ、部活動への参加も認められませんでした。特に、根性でずっと続けてきた柔道を取り上げられてしまったことは、彼にとって大きな出来事でした。
彼が通うことになったのは、「7組」というクラスでした。“普通”のクラスは5組までで、なぜか6組を飛ばして設けられた「7組」。これは何を意味するのか、彼にはすぐに理解できました。“みんなと違うクラス”に通う生徒が、周囲からどのような目で見られるかは、想像に難くありません。たぶん、多くの学校で同じような状況があるはずです。
ラッパー「札幌のギャグ男」。自身の著書『普通じゃない』で特別支援教育の経験を語る
周囲からの視線と「恥ずかしい」という感情
「こっち来るな」「汚いんだよ」。特別支援学級に通っていることで、それまで仲が良かった友人たちも彼から離れていき、散々に馬鹿にされました。同じような経験をしたことがある人は、きっと理解できるはずです。このような状況で感じるのは、意外と「ムカつく」とか「仕返ししてやろう」という怒りの感情ではありません。代わりに心を満たすのは、ただただ「恥ずかしい」という感情だけなのです。自分は「普通じゃない」場所に分けられた、という思いが、自尊心を深く傷つけました。同じような経験をした多くの人が、同様の感情を抱くことでしょう。
友人からの予想外の温かい言葉
そんな中で、たった一人、柔道を通して仲良くなったツカダくんだけは、彼に優しく接してくれました。ある時、「俺、障害者学級に入るかもしれないんだ」と相談したところ、ツカダくんは少しの迷いもなく「いいんじゃない? 関係ないよ」と言ってくれたのです。この言葉が、当時の彼にとってどれほど嬉しかったか、計り知れません。周囲から孤立し、自分を恥じる気持ちでいっぱいだった彼にとって、この一言はまさに救いでした。今は残念ながら連絡先は分かりませんが、もしもう一度会えるなら、面と向かってきちんと「ありがとう」と伝えたい。あの時叶えられなかったお泊まり会も、今度こそ一緒にしたいと心から願っています。
特別支援学級への編入は、ラッパー「札幌のギャグ男」さんにとって、「普通じゃない」自分を強く意識させられる経験でした。周囲からのいじめや差別、部活動からの排除といった困難に直面し、「恥ずかしい」という複雑な感情を抱きました。しかし、そのような厳しい現実の中にも、ツカダくんのような友人からの温かい言葉という救いがありました。彼の半生の一部であるこの経験は、特別支援教育を受ける生徒たちが直面する社会的な壁と、人間的な繋がりがいかに重要かを示唆しています。
【出典】
- 著書『普通じゃない』(彩図社)
- Yahoo!ニュース(元記事:NEWSポストセブン)における著者へのインタビューより再構成