トランプ政権、不法移民摘発強化と軍事パレードが招いた波紋

「アメリカ最大の脅威は、国内に潜む”内なる敵”だ」――かつてこう語ったトランプ氏の政権下で、不法移民を標的とした突然の摘発が展開され、自身の誕生日には平時としては1991年の湾岸戦争終結以来初となる異例の軍事パレードが挙行されました。これに対し、各地で大規模なデモが発生。その弾圧には軍隊が投入される異例の事態となり、「”王政”の始まりか」との声も上がっています。一連の動きとその背景、市民の反応を追います。

トランプ大統領の誕生日にワシントンD.C.で行われた軍事パレードトランプ大統領の誕生日にワシントンD.C.で行われた軍事パレード

急激な不法移民摘発と異例の軍投入

ロサンゼルスで発生したとされる「ロス暴動」。これは、トランプ政権が掲げる「1日当たり3000人の不法移民逮捕」という目標の下、アメリカ移民税関捜査局(ICE)がロサンゼルスなどを中心に展開した大規模な摘発、通称「不法移民狩り」が発端となりました。この過激な取り締まりに対し、市民の間で抗議運動が勃発。一部が暴徒化したことを受け、ロサンゼルス市内には夜間外出禁止令が敷かれ、トランプ大統領は合計4000人のカリフォルニア州兵と700人の海兵隊の派遣を命じるに至ったのです。政権の強硬策に反発する市民運動に、軍隊が鎮圧に乗り出すという事態は米国内で極めて異例として受け止められています。

専門家が見る背景と実態

アメリカ在住の作家でジャーナリスト、冷泉彰彦氏は、「不法移民はどんどん捕まえて送り返せ――これは第1次トランプ政権からの主要政策の一つであり、ICEがその実行役を担っています」と解説します。ただし、冷泉氏は「〝不法〟とは滞在許可証がないだけで、彼らは米社会の貴重な労働力であり、全米に約1300万人いると推計されています。今回のカリフォルニア州のように、多くの州が彼らの存在を事実上黙認してきましたし、米国で生まれた彼らの子供たちが自動的に米国籍を得ることも当然視されてきました。そもそもアメリカの歴史そのものが、そうした移民たちによって支えられてきたからです」と指摘し、今回の摘発が持つ歴史的文脈からの逸脱を示唆します。

苛烈な手法への反発と「暴動」の検証

6月に入ってICEがカリフォルニア州で集中的な摘発に乗り出した際、メキシコ系の移民が多く働く農場やホームセンターに加え、移民の子供たちが通う学校や病院にまで捜査官が立ち入って一斉摘発を開始したことで、そのあまりに苛烈な手法に市民の怒りが噴出しました。ちなみに、今回ロサンゼルスなどで起きた抗議運動の参加者の大半は、不法移民そのものではなく、メキシコ系を中心とした合法移民や、トランプ政権の移民政策に反対する一般市民でした。

トランプ氏は不法移民を「外国から来た犯罪者」と繰り返し非難していますが、実は不法移民の犯罪率は、アメリカ市民の犯罪率と比べてかなり低いことが統計で示されています。その理由は、不法移民は仮に微罪でも逮捕されれば本国に送還されるリスクが高いため、できるだけトラブルを避け、真面目に暮らそうとする人が圧倒的に多いからです。また、ロサンゼルスなどで起きたデモも、一部で警官隊との衝突や車への放火、略奪行為が見られたものの、基本的には平和的な抗議活動が中心であり、「暴動」と呼ぶには程遠く、地元のロス市警だけで十分に対応可能な状況だったともいわれています。それにもかかわらず、トランプ大統領がカリフォルニア州のニューサム知事からの要請がないまま一方的に州兵と海兵隊を投入したことに対しては、アメリカ中で強い反発の声が上がりました。

トランプ政権による不法移民への強硬な姿勢、それに対する大規模な市民の抗議、そして異例の軍投入は、米国内で大きな波紋を呼んでいます。特に、犯罪率が低いとされる不法移民を標的にした摘発手法や、知事の要請なく行われた軍の動員は、政権の姿勢に対する根強い反発と懸念を生んでいます。

出典: Yahoo!ニュース(掲載元: 週プレNEWS) – トランプが仕掛けた「不法移民狩り」と「軍事パレード」。これは”王政”の始まりか?