米国原発、手順無視で冷却水漏れ 福島と同型、組織的安全文化に問題か

米中西部イリノイ州にあるクアッドシティーズ原子力発電所で2023年に発生した原子炉停止作業中のトラブルに関する詳細が、原子力規制委員会(NRC)の報告書により明らかになった。運転員が手順書を無視して弁の閉鎖確認を怠った結果、約4500リットルの冷却水が漏出し、炉内の水位が低下した。この事案を受け、NRCは今年5月、虚偽報告を含む6件の規制違反があったとして、運用する電力大手コンステレーション・エナジーに対し処分を検討している。

米国イリノイ州、冷却水漏れ問題が発生したクアッドシティーズ原子力発電所の外観写真米国イリノイ州、冷却水漏れ問題が発生したクアッドシティーズ原子力発電所の外観写真

事故の詳細と危険性

事故は原子炉の停止手順中に発生した。運転員が定められた手順書に従わず、特定の弁が閉じているかどうかの確認を怠ったことが直接の原因とされる。これにより冷却水が漏れ出し、事態が発覚した。漏出は約6分後に止まったものの、もしあと9分続いていれば、炉心の冷却水が核燃料の上端まで低下する可能性があったという。科学者団体「憂慮する科学者同盟」はこの事態を「炉心損傷や放射性物質放出につながる大事故の前兆だった」と厳しく批判している。

規制当局の対応と違反

NRCの調査報告書は、このトラブルにおいて複数の安全規制違反があったことを指摘している。特に問題視されているのは、現場責任者が上司からの叱責を恐れ、当初は「ホースの損傷が原因」と虚偽の報告を行っていた点である。この虚偽報告を含め、NRCは合計6件の違反を認定し、運用会社であるコンステレーション・エナジーに対して違反通知を発出した。現在、NRCはこれらの違反に対する具体的な処分内容を検討している段階にある。

組織的な安全文化と過去の教訓

今回のトラブルとそれに続く虚偽報告は、個人レベルのミスに留まらず、組織全体の安全に対する軽視する体質が背景にある可能性を露呈した形となった。このような、安全よりも手続きや体面を優先する組織文化は、過去にも大きな原子力事故の要因として指摘されてきた。特に、2011年に発生した東京電力福島第一原発事故においても、同様の組織的安全文化に関する課題が議論された経緯があり、今回の米国での事案は、原子力施設の安全運用における組織文化の重要性を改めて浮き彫りにしている。

対象となる原発の概要

トラブルが発生したクアッドシティーズ原発は、イリノイ州に位置し、電力大手コンステレーション・エナジーが運用している。この原発には、福島第一原発と同じタイプの沸騰水型軽水炉(BWR)が2基設置されており、1973年から運転を開始している。同型炉での事故事例として、今回の件は日本の原子力関係者にとっても注視すべき事案と言える。

参考文献