高齢者の賃貸契約『ほぼ不可能』の現実:不動産プロが語る壁と法改正の行方

今年の春、SNS上で「年寄りに家貸してくれる家主探せるもんなら探してみ?」という投稿が大きな話題となりました。この投稿は、日本において高齢者が直面している深刻な賃貸住宅の借り入れ難を浮き彫りにしました。では、実際のところ高齢者の賃貸物件探しはどの程度困難なのでしょうか?また、2025年10月に施行が予定されている「改正住宅セーフティネット法」は、この高齢者 賃貸問題の解決につながるのでしょうか。不動産コンサルタントの後藤一仁氏に、現在の実態、背景、そして法改正による今後の展望についてお話を伺いました。

高齢者の住まい探し、民間の不動産会社では『門前払い』レベル

「高齢者にとって物件を借りることは『難しい』というレベルではなく、民間の不動産会社では『ほぼ不可能』と言っていい状況です。相談に乗ってもらえるだけでも幸運で、多くの不動産会社では文字通りの門前払いを受けるケースが実情です」と、不動産コンサルタントの後藤氏は語ります。後藤氏によると、高齢者の賃貸物件を取り巻く状況は極めて深刻であり、特に65歳あたりから入居審査が厳しくなり始め、年齢を重ねるごとにさらに困難が増していくと言います。

賃貸契約の審査においては、社会とのつながりが重視される傾向があります。配偶者や子どもの有無、そして職業などが重要な判断材料となります。64歳までは雇用延長制度によって働き続けている人も多く、収入の安定性から家賃滞納リスクが比較的低いと見なされるため、入居しやすい傾向にあります。しかし、たとえ64歳以下であっても、年金収入のみで生活している人の場合は、既に厳しい入居状況に置かれています。後藤氏のもとには、高齢者からの切実な声が多数寄せられています。

「親とは疎遠で、子どももいません。兄弟は入院中で保証人にも身元引受人にもなってもらえません。不動産会社を15軒回りましたが、どこでも断られてしまい、本当に途方に暮れています」という声は、高齢者の部屋探しがいかに困難かを物語っています。

年金収入のみで賃貸物件を探す高齢者のイメージ年金収入のみで賃貸物件を探す高齢者のイメージ

物件の貸し出しを断る主な理由としては、広く知られている孤独死のリスクや家賃滞納の懸念が挙げられます。しかし実際には、不動産業者の多くが高齢者特有の様々なトラブル発生リスクを懸念しています。

「頻繁に報告されるのが、ゴミに関する問題です。ゴミ出しが億劫になり部屋にため込んでしまった結果、部屋がゴミ屋敷状態となり、強い悪臭や大量の害虫が発生するケースがあります。また、認知症を患っている方の場合は、共用部分での排泄や夜間の大声・奇声といった問題行動が見られることもあります。注意をしても電話に出なかったり、一方的に切られてしまったり、『なぜそんなことをしなければいけないのか』『自分の部屋で歌って何が悪いのか』といった反論を受けることも少なくありません。これらの事例には、ご自身が認知症であることを自覚していないケースも含まれていると考えられます。」

こうした高齢者特有の問題が発生した場合、その対応責任は管理会社や賃貸オーナーが負うことになります。近隣住民からの苦情処理なども求められます。貸主が高齢者に物件を貸したいという意向を持っていたとしても、こうしたリスクの大きさを考えると、現行のシステムではどうしても二の足を踏まざるを得ない状況にあると言えるでしょう。

今後の展望:法改正は高齢者の住まい探しの希望となるか

このように、現在の日本では多くの高齢者が賃貸住宅を借りる上で極めて高い壁に直面しています。年金収入のみでの生活、頼れる身寄りがないといった個人的な状況に加え、孤独死や家賃滞納のリスク、さらには高齢者特有のトラブルへの懸念が、貸主側のハードルを高くしています。不動産業者間で共有されるトラブル事例は、さらに高齢者への貸し出しを避ける傾向を強めています。

2025年10月には「改正住宅セーフティネット法」の施行が予定されており、これによって高齢者の入居が円滑になることが期待されています。しかし、実務においては貸主や管理会社の懸念が完全に払拭されるかなど、課題も残されており、法改正がどこまでこの「ほぼ不可能」な現状を変えることができるのか、今後の動向が注目されます。高齢者が安心して住める環境の整備は、喫緊の社会課題と言えるでしょう。


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