「三田会」として広く知られる慶應義塾大学の卒業生組織は、日本の大学の中でも類を見ない強固なネットワークを誇ります。総勢41万人もの卒業生が所属し、その加入は任意であるにも関わらず、なぜこれほど多くの卒業生が三田会に参加するのでしょうか。そこには、表向きの活動だけではない、強力なネットワークによるメリットや、独特の文化が存在します。本記事では、慶應卒業生ネットワーク「三田会」の実態に迫ります。
年に一度の祭典:連合三田会大会の実際
毎年10月、全国各地から慶應義塾大学の卒業生が日吉キャンパスに集結します。その目的は「連合三田会大会」への参加です。連合三田会大会は、いわば卒業生だけのための大規模な文化祭のようなものです。慶應卒業生が経営する飲食店の屋台が並び、卒業した年度ごと、あるいは勤務先や地域ごとの「三田会」がブースやテーブルを設けて交流を深めます。会場内では、慶應出身の著名な芸能人によるトークショーや、卒業生限定のライブなども企画され、盛況を呈します。筆者が過去に所属した経験があるのは、地域の三田会とFacebookグループの三田会です。地域の三田会では、一般的な異業種交流会に近い形式で、プレゼント抽選会などで盛り上がりを見せました。会が終わりに近づくと、大学の応援歌である「若き血」を全員で合唱するという、外部から見れば独特な光景も見られました。Facebookの三田会は、不定期に飲み会が開催されるほか、スポーツや芸能分野で活躍する慶應出身者が話題になると、皆で称賛し合うという、比較的穏やかなコミュニティでした。このように、表面上は穏やかな活動に見える三田会が、時にフリーメイソンのような閉鎖的な秘密組織のように語られるのはなぜでしょうか。いくつかの取材を通じて、その実態を読み解いていきます。
慶應義塾大学の卒業生が集まり、交流を深める「三田会」ネットワークのイメージ
「三田会」ネットワークの浸透と影響力
三田会の独特さは、「まさかそんなところにまで?」と感じさせるほどの浸透度の高さにあります。例えば、ある大手新興宗教の内部にすら、独自の「三田会」が存在するという証言があります。これは、単に新興宗教の信者であるだけでなく、その中でさらに慶應の卒業生同士で集まるという、ある種の徹底した集団化を示しており、外部の人間にとっては薄気味悪さとして映ることもあります。東京海上日動、トヨタ自動車、三井物産といった国内を代表する大手企業では、勤務先別の三田会会員数が1,000名を超える規模になるところもあります。このような大企業内では、他大学出身者と慶應出身者(三田会メンバー)との間にコントラストが生まれやすく、「いつも慶應の人たちで固まっているな」という印象を与えがちです。早稲田大学から三菱UFJ銀行に入行した知人は、三田会について次のように語っています。「三田会、というよりも、さらに細分化された『慶應でどの部活に所属していたか』によって、社内での対応が変わるように感じることがあります。『君は慶應の応援指導部出身なのか。それなら話が早い』といった場面を何度か目にしました。だからと言って、露骨な差別があったり、個人の業績に関わらず出世が決まったりするわけではないでしょう。しかし、有利か不利かで言えば、やはり三田会の出身者の方が有利に働く場面は少なくないと感じています。」これは、三田会という枠組みだけでなく、その内部にある特定のコミュニティや共通のバックグラウンドが、非公式な形で影響力を持つ可能性を示唆しています。
多様な「三田会」の広がり
企業や地域、趣味嗜好に基づいたものまで、「三田会」の形態は非常に多様です。前述のような勤務先別や地域別の三田会に加え、「ディズニー三田会」や「マッスル三田会」など、特定の趣味や関心を共有する卒業生が集まる和やかな三田会も数多く存在します。これらの例からもわかるように、慶應義塾大学の卒業生であれば、何らかの共通点を持つ人々が集まり、「三田会として登録したい」という申請を行うことで、大学公認のサークル活動のような感覚で、比較的手軽に新たな三田会を設立し、所属することができるルールになっているのです。この柔軟かつ包括的な仕組みが、三田会ネットワークがこれほどまでに広がり、多様な形で存在し続ける一因と言えるでしょう。それはまた、卒業生たちが自身のアイデンティティや関心に基づき、生涯にわたって大学とのつながりを維持し、新たな人脈を築くためのプラットフォームとして機能していることを示しています。
結論
慶應義塾大学の「三田会」は、41万人という圧倒的な規模と、その活動の多様性によって、日本の他の大学の同窓会とは一線を画しています。年に一度の連合三田会大会のような大規模イベントから、企業内や地域、さらには特定の趣味嗜好に基づく小規模な集まりまで、様々な形で卒業生間の強固なネットワークを維持・拡大しています。このネットワークは、単なる親睦に留まらず、ビジネスやキャリア形成において有利に働く側面があることが示唆されており、その浸透度の高さは時に外部から見て独特な文化として映ることもあります。任意団体でありながらこれほど多くの卒業生を引きつける三田会は、慶應卒業生にとってかけがえのない人脈形成の場であり、卒業後も続く「慶應ブランド」の一端を担っていると言えるでしょう。
参考資料
- Yahoo!ニュース / みんかぶプレミアム特集 – 「なぜ新興宗教の中にまで三田会があるのか…慶應の卒業生ネットワークの異様さ」(https://news.yahoo.co.jp/articles/3d2a05e0f274180548be650aab29e6a547173cf5)