2型糖尿病予防のカギは「筋肉」にあり? 運動が血糖値を下げる科学的メカニズム

日本人の6人に1人が罹患すると言われる2型糖尿病。過食や糖質・脂質の多い食習慣に加え、「運動不足」もまた発症の大きな原因です。では、なぜ運動が2型糖尿病の予防に重要なのでしょうか?スポーツ科学の専門家、樋口満氏の知見を基に、運動が血糖値を下げる科学的メカニズムを解説します。

日本で2型糖尿病患者が増加する背景

2型糖尿病は生活習慣病の一つで、食習慣や「運動不足」といったライフスタイルの変化、および平均寿命の延伸に伴う高齢化の進行により、日本での患者は増え続けています。

これは、食事から摂取した糖質(炭水化物)が体内で適切に処理されず血液中に高濃度で留まる「持続的な高血糖状態」が続くことで、余分な糖(ブドウ糖)が様々な細胞、特に末梢組織の毛細血管にダメージを与えるために起こります。血糖値は空腹時には低いものの、糖質を含む食事や飲料を摂取すると上昇し、その後徐々に低下するのが正常な処理ですが、2型糖尿病ではこの処理がうまくいきません。

摂取した糖はどこへ?

食事で摂った糖質は小腸で消化・吸収され、門脈を経て肝臓から血液中に放出され、血糖として全身を巡ります。この血糖は体内の様々な組織でエネルギー源として利用されたり、貯蔵されたりすることで血液中から取り込まれ、血糖値は低下していきます。では、体内のどの組織が主に血糖を処理しているのでしょうか。

血糖処理の主役は「筋肉」だった

健常者の場合、摂取した血糖の約80%は「筋肉」によって取り込まれ、処理されています。これは、筋肉が体内で最も容積が大きく、活動性の高い組織だからです。

糖尿病予防のために運動する人のイメージ糖尿病予防のために運動する人のイメージ

しかし、2型糖尿病患者では、この筋肉による血糖取り込み能力が、健常者の半分程度にまで低下していることが分かっています(研究結果あり)。内臓や脂肪組織での取り込み量に大きな差がないことからも、筋肉機能の低下が2型糖尿病の発症や進行に深く関わっていることが示唆されます。

運動が筋肉の糖取り込みを促進するメカニズム

筋肉細胞内で糖を取り込む際に重要な役割を果たすのが「糖輸送体(GLUT4)」と呼ばれるタンパク質です。GLUT4は筋肉細胞や脂肪細胞の内部にプールされており、血液中のブドウ糖を細胞内に運び込む「門」のような働きをします。

このGLUT4が細胞膜表面に移動するためには、インスリンによる刺激、そして「筋収縮(運動)」による刺激という、異なる二つのメカニズムがあります(研究結果あり)。細胞膜に移動したGLUT4が、血液中のブドウ糖を筋肉細胞内へと積極的に運び込むことで、血糖値が低下するのです。したがって、運動によって筋肉を収縮させることは、インスリンの働きとは独立したメカニズムで血糖値を下げる効果があると言えます。

まとめ:運動で筋肉を動かし予防を

2型糖尿病の予防や管理において、過食の見直しや食習慣の改善と並んで非常に重要なのが「運動」です。特に筋肉は体内の血糖を大量に処理する主要な器官であり、運動による筋収縮はGLUT4を介し血糖を筋肉内に取り込む働きを促進します。これはインスリンの効きが悪くなっている状態(インスリン抵抗性)がある場合にも有効でありうるため、運動習慣を取り入れることは2型糖尿病のリスクを低減し、健康維持に繋がります。

参考文献

  • 樋口 満『健康寿命と身体の科学 老化を防ぐ、50歳からの「運動・食事・習慣」』(講談社)