韓国で11月、大学入試に遅れそうになった生徒を乗せたパトカーが会場の高校に強引に突っ込み、無事に送り届けたというニュースが話題を集めた。日本人の感覚からは、受験という「私的な目的」のために警察官さえルールを破ったとも思えるが、韓国では警察官が機転を利かせた“美談”と受けとめられ、拍手喝采を浴びたのだ。この韓国ならではの話題から、「ルール」か「目的」かという日韓対立の根っこにも横たわる価値観の隔たりについて考えてみたい。(釜山 桜井紀雄)
サイレン鳴らし「受験生が乗っている」
「大学修学能力試験(修能)」。こう呼ばれる大学入学のための統一試験は、学歴社会の韓国で国を挙げた一大事だ。
試験会場に向かう生徒らの邪魔にならないようにと、通勤時間を遅らせる企業があったり、リスニングの妨げにならないようにと、航空機の離着陸さえ制限されたりする。
受験生らは事前に会場となる高校をチェックするなど準備に余念がないが、それでも毎年、出現するのが遅刻しそうになってパトカーで送られる生徒たちだ。
修能当日の11月14日、ソウル中心部の外国語高校で“事件”は起きた。韓国メディアによると、午前7時45分ごろ、受験生から警察に支援要請があった。父親の車で試験会場の高校に向かっていた生徒は8時3分ごろ、パトカーに乗り換えた。試験会場への入室完了時間とされたのは8時10分。高校まで最短で5・8キロ。20分以上はかかる道のりで半ば絶望的だった。
生徒は泣き始めたが、警察官は「行ってみよう!」とサイレンを鳴らし、速度を上げた。
「受験生が乗っている」と拡声器で伝えると、周囲の車は道を空けた。
驚きと拍手
高校の正門に着いたときには、既に8時10分を2分すぎていた。正門は本来、車両の進入が禁じられ、車が入ってこられないように半分閉じられていた。
その隙間にパトカーは飛び込んだ。おおおっ-。周囲からは驚きの声が上がった。