日産自動車が打ち出す経営再建計画「Re:Nissan」に対するアナリストの評価は厳しいものとなっています。2万人の人員削減や7工場の閉鎖など、一見踏み込んだように見えるリストラ策にも関わらず、投資判断は「売り」一色です。市場は業績回復が2026年度まで待たねばならない点を問題視しており、さらに計画の実行性にも根強い疑念を抱いています。本記事では、この日産再建策が直面する課題を深掘りします。
計画の指揮を執るイバン・エスピノーサ社長は、世界で2万人を削減し、固定費と変動費を合わせて2024年度比で5000億円削減するという大規模なリストラ策を発表しました。しかし、肝心の業績改善の具体的な成果が現れるのは、早くとも2026年度以降という見通しです。
再建計画を進める日産自動車の先進的なデザイン車両
計画の概要と市場の反応
通常、企業が大規模なリストラ計画を打ち出すと、株式市場は業績のV字回復を期待する傾向があります。しかし、日産の「Re: Nissan」計画では、トランプ関税の影響なども背景に、「2026年度までに自動車事業の営業利益およびフリーキャッシュフローの黒字化を目指す」という、市場が期待するほどの迅速な回復を示すものではありませんでした。東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司氏は、「今の日産とディスカッションしたいと思うアナリストはいない」と手厳しい見方を示しており、アナリストの間で再建計画への期待値が低い現状が浮き彫りになっています。
工場閉鎖計画の実行性と不透明性
人員削減に加え、今回の再建計画で特に注目されるのは、車両組み立て工場の閉鎖に踏み込んだ点です。グローバルで17ある工場のうち7つを閉鎖し、10工場に集約することを明確に示しました。これにより、生産能力を2024年度から100万台削減し、2027年度には250万台に抑える計画です。目標とする稼働率は現在の70%から100%への大幅な引き上げです。
しかし、今回示された生産能力の数字は、連結子会社ではない中国分を除いたものです。中国分を含めると、2027年度の生産能力は350万台程度と想定されており、実際に稼働率が100%に近づくのかについては依然として不透明さが残ります。工場閉鎖に言及したこと自体は一部アナリストから評価される声もありますが、過去の日産の中期経営計画が楽観的な予測を立てて未達に終わることが多かった経緯から、今回の計画の実行性を疑う見方は依然として強い状況です。
不明瞭な財務目標と過去との比較
今回の再建計画において、日産は最終的にどれくらいの赤字を計上するのかを具体的に示していません。計画実行後の具体的な利益目標の数字も開示されていません。これは、リストラ計画の内容がまだ流動的であり、固まりきっていないことを示唆しています。現時点では、リストラ費用についても積み残しがあり、計画の進捗を見通すのが困難な状況です。
計画の実行スピードについても疑問が残ります。大規模なリストラは、社内外の反発やクレームを抑え、頓挫するリスクを減らすためにも、一気に進めるのが鉄則とされています。7工場の閉鎖という踏み込んだ内容が、本当に計画通りに実行できるのかは、再建の大きな不安要素となっています。
1999年10月に発表された再建計画「日産リバイバルプラン」では、当時の最高執行責任者(COO)であったカルロス・ゴーン氏が、5つの工場閉鎖を宣言し、同時に村山工場、日産車体の京都工場、愛知機械工業の港工場(車両組み立て工場)、久里浜工場、九州エンジン工場(パワートレーン工場)という具体的な工場名を明らかにしました。
対照的に、現在のエスピノーサ社長は、閉鎖する工場の情報開示について極めて慎重な姿勢を見せています。2025年6月20日時点で公表されているのは、アルゼンチンのサンタ・イザベル工場、インドのチェンナイ工場、そしてタイ工場のみであり、主要な閉鎖対象がまだ不明な点も、計画への不信感に繋がっている一因と言えるでしょう。
日産の「Re: Nissan」計画は、大胆なリストラ策を含む一方で、市場が求めるスピード感、財務的な明確さ、そして実行性への懸念から、厳しい評価に直面しています。計画の成否は、今後の具体的な進捗と、不透明な部分をいかに解消していくかにかかっています。