北朝鮮、豪華リゾート開業で観光注力 食糧難と対照的な金正恩氏の思惑

北朝鮮で最近、日本海に面した東海岸に同国最大の巨大リゾート施設がオープンしました。国際社会による経済制裁の影響を受け、食糧難など住民の生活が困窮する状況が伝えられる中、今、観光事業に力を入れる金正恩総書記の思惑とは一体何でしょうか。

元山海岸観光地区の大規模リゾート

朝鮮中央テレビと朝鮮中央通信によると、新たにオープンした巨大リゾート施設は、北朝鮮東部の元山(ウォンサン)という都市に位置するビーチリゾートです。この施設は合計で2万人を収容できる豪華ホテル群で構成されており、主に国内の観光客向けに作られました。運営初日から多数の客が滞在していると伝えられています。

北朝鮮の東海岸、元山に開業したばかりの大規模リゾート施設北朝鮮の東海岸、元山に開業したばかりの大規模リゾート施設

先月24日に行われた竣工(しゅんこう)式には、金総書記が娘や妻のリ・ソルジュ氏とともに出席しました。リ・ソルジュ氏が公の場に姿を見せたのは1年半ぶりであり、このことは金総書記がいかにこのリゾート開発を重視しているかを強く示唆しています。

観光開発の重点地域

北朝鮮は現在、元山を含め、3カ所の観光地の開発を重点的に進めています。

北朝鮮が観光推進する元山、白頭山、七宝山の3重点地域を示す図北朝鮮が観光推進する元山、白頭山、七宝山の3重点地域を示す図

アメリカ政府系メディア「ラジオ・フリー・アジア」によれば、北朝鮮は十数年前から、北部の白頭山(ペクトゥサン)、北東部の七宝山(チルボサン)、そして東部の元山の3カ所に施設を建設するなど、観光業に力を入れてきました。

白頭山は金総書記の父である金正日氏の生誕地とされ、北朝鮮の対外向け宣伝メディア「朝鮮の声」では「複合型の山岳観光地であり、スポーツ観光の名所」として、今後スキー場やホテルの整備が予定されていると紹介されています。白頭山の麓にある三池淵(サムジヨン)市は、その美しい建築や自然景観も観光資源として売り出そうとしています。

韓国メディア「ニュース1」によると、金、銀、パールなど「7つの宝物が埋まる山」とされる七宝山も、美しい山岳景勝地として観光客誘致が図られています。

観光関連職の人気の背景

このような観光業への注力に伴い、北朝鮮国内では新たな職業が人気を集めています。「ラジオ・フリー・アジア」が消息筋の話として伝えたところによると、北朝鮮でツアーガイドなどを育成する大学が、地方の幹部など比較的エリート層の子どもの間で人気となっています。その背景には、旅行会社が地方にも設立されたことや、観光業が洗練されたイメージを持たれていることがあるといいます。

北朝鮮でツアーガイドなどの観光人材を育成する大学の校舎北朝鮮でツアーガイドなどの観光人材を育成する大学の校舎

さらに、観光客からもらうチップも大きな魅力の一つです。仮に日本円で2000円ほどのチップだったとしても、これは北朝鮮の一般労働者の4カ月〜半年分の給与に相当するとされており、経済的なインセンティブが高いことが人気の要因となっています。

外国からの北朝鮮旅行の現状

では、海外から北朝鮮を訪問することは現在可能なのでしょうか。日本の外務省は北朝鮮への渡航を「自粛」するよう求めており、アメリカの国務省は「渡航禁止」としています。

中国の旅行会社が販売する北朝鮮観光ツアーの紹介写真中国の旅行会社が販売する北朝鮮観光ツアーの紹介写真

一方、歴史的に北朝鮮と関係が深い中国では「北朝鮮ツアー」が販売されています。北京のある会社のホームページに記された旅行内容の例としては、5泊6日の日程で、主な観光先は北緯38度線、休戦協定署名場、朝鮮労働党創建記念塔、平壌のイルカ水族館などが挙げられています。食事には鉄板を使った炭火焼のローストダックや、平壌の有名店の冷麺などが含まれ、北京からの添乗員と北朝鮮のガイドが付帯します。金額は約15万円とされています。

結論

北朝鮮は、国際的な経済制裁や深刻な食糧難に直面しながらも、大規模なリゾート開発を含めた観光産業に国家レベルで力を入れています。これは、外貨獲得や国内経済の活性化、あるいは体制の安定化を図るための戦略と考えられます。しかし、豪華なリゾートの開業と住民の困窮という対照的な状況は、北朝鮮が抱える構造的な問題と、金正恩政権の優先順位を浮き彫りにしています。観光業の育成は新たな雇用や収入の機会を生む一方で、その恩恵が国民全体に及ぶのか、そして国際社会との関係にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注目されます。

参考文献

  • 朝鮮中央テレビ報道
  • 朝鮮中央通信報道
  • ラジオ・フリー・アジア報道
  • ニュース1報道
  • 日本国外務省情報
  • 米国務省情報