住吉会新本部ビルに警視庁・千葉県警が家宅捜索:移転直後の実態と組織犯罪の背景

東京・JR田町駅から徒歩約10分、大手外車ディーラーや菓子メーカーの本社が立ち並ぶ一角に、異様な雰囲気を放つ5階建てのビルがひっそりと佇んでいます。四方には複数の監視カメラが設置され、玄関は一人分ほどの幅しかなく、固く閉ざされた扉には見えにくい位置に小さな看板が一つだけ掲げられています。ここは指定暴力団・住吉会の新たな本部ビル、「住吉会芝浦事務所」。組員数約3200人(警察庁調べ)を擁するこの広域暴力団の拠点に、移転したばかりの6月26日、警視庁と千葉県警による合同捜査本部が家宅捜索に踏み込みました。

住吉会の芝浦新本部ビル外観。複数の監視カメラが設置され、厳重な警備体制が敷かれている様子。住吉会の芝浦新本部ビル外観。複数の監視カメラが設置され、厳重な警備体制が敷かれている様子。

転居間もない新本部への異例の捜索

暴力団事務所への家宅捜索自体は珍しいことではありませんが、今回は住吉会が芝浦へ移転してからわずか2週間後の捜索という異例の事態でした。午前10時半に捜査員約30人がビル入り口で令状を示し、一斉に踏み込みました。今回の捜索は、住吉会傘下の組員が盗難車であるアルファードを埼玉県吉川市内の整備工場に持ち込み、ナンバーを付け替えて転売していた疑いに端を発しています。この収益が住吉会の本部に上納されていたとみられており、組織犯罪処罰法違反の疑いがかけられています。盗難車の多くが千葉県内のナンバープレートであったことから、千葉県警も合同捜査に加わりました。

揺れ動く住吉会の拠点:頻繁な移転の歴史

住吉会は以前、東京・赤坂6丁目に本部を構えていましたが、ビルの老朽化に伴い2023年に売却されました。その後、新宿7丁目のマンションに一時的に拠点を移しましたが、近隣住民からの激しい反対運動を受け、今年6月12日に現在の芝浦1丁目のビルへと再移転したばかりでした。短期間での移転が繰り返される中、警察当局は住吉会の活動実態に対し、厳重な監視を続けていることが浮き彫りになりました。

捜査員が見た新本部内部の構造

捜査によって明らかになった新本部ビルの内部構造は、その活動形態の一端を窺わせるものでした。ビルの1階部分は駐車場として利用されており、組員や来訪者の車両が出入りするスペースとなっています。事務所は2階に設けられ、日中は4~5人の組員が常駐し、夜間は二次団体の組長が部下と共に交代で泊まり込みの番を務めていると報じられています。事務所内には、他の友好団体から贈られた記念品が飾られていたとのことです。

さらに3階には会議室が設けられ、組織の主要な意思決定が行われる場であると同時に、住吉会会長の専用室も確認されました。4階は広々とした和室となっており、ここが組内における杯事(さかずきごと)や新年の挨拶といった重要な儀式が執り行われる場として使用されていることが示唆されます。そして最上階は、現会長が使用する居住スペースとなっていると見られています。

捜索の成果と今後の組織犯罪対策

約1時間に及んだ今回の家宅捜索でしたが、事件に直接結びつくような拳銃や薬物といった“獲物”は見つかりませんでした。押収できたのは、幹部名簿や幹部の就任を知らせる書類など、組織の運営に関わる資料に留まりました。しかし、この捜索の翌週には埼玉県警も別の容疑で住吉会の新本部に対して家宅捜索を実施しており、警察当局が住吉会に対する監視と捜査の手を緩めていないことが伺えます。

今回の家宅捜索は、住吉会の新たな拠点に対する警察の揺るぎない姿勢を示すものであり、組織犯罪に対する継続的な取り締まりの一環として注目されます。今後も警察当局による組織犯罪の解明と取り締まりが強化されていくものとみられます。


参考文献

  • 「週刊新潮」2025年7月31日号 掲載
  • 新潮社