検察トップ人事:次期総長に川原隆司氏、後任法務次官に森本宏氏内定

検察全体のトップである検事総長の事実上の後継者を決める検察・法務省人事が6月24日、閣議決定された。この人事で、検察のナンバー2である斎藤隆博東京高検検事長(62)の後任に、川原隆司法務省次官(60)が就任することが決まった。現職の畝本直美検事総長(62)の後任として川原氏が有力視されており、史上初の慶應義塾大学出身の検事総長誕生がほぼ確実となった形だ。畝本氏は中央大学出身であり、東京大学出身者が圧倒的に多い検事総長のポストに、私立大学出身者が連続して就任するのも初めての出来事となる。

ほぼ確実に次期検事総長になると見られている背景には、検察人事特有の制度、特に役職定年と総長定年の違いがある。検事長を含む最高幹部の役職定年は63歳だが、検事総長の定年は65歳と定められている。総長が引退する時点で最高幹部に就いていないと、次の総長に就任することはできない。畝本氏が65歳を迎えるのは2027年7月であり、川原氏は畝本氏よりも2歳年下のため、総長が引退する時点でも62歳であり、総長就任の年齢要件を十分に満たしている。年次や現在の役職から見ても、大きな変動がない限り、川原氏が次期総長となるのは既定路線というのが、検察担当記者や検察ウォッチャーたちの共通の見解である。

検事総長の有力後継者とされる法務省次官・川原隆司氏検事総長の有力後継者とされる法務省次官・川原隆司氏

この人事に関連して、5年前の2020年に起きた検察の定年延長を巡る騒動も想起される。当時は、総長以外の幹部は63歳までに退職しなければならない制度だったため、人事の調整が難航した。安倍政権に近く「官邸の守護神」と呼ばれた当時の黒川弘務東京高検検事長が63歳を迎える直前に、異例の半年間、定年が延長された。これは、当時の総長が定年を迎える同年8月まで黒川氏の定年を延ばすことで、次期総長に据えるための「禁じ手」として大きな話題を呼んだ。しかし、定年延長の最中に新型コロナウイルス感染拡大下で賭け麻雀をしていたことが「週刊文春」の報道で発覚し、黒川氏は辞職に追い込まれ、総長就任の道は断たれた。最終的には単純賭博罪で略式起訴される事態となった。

今回の検察人事においては、この過去の経緯も影響している側面がある。検察関係者によると、今回最も注目されているのは、川原氏の後任の法務省次官に、森本宏刑事局長(57)が内定したことだという。森本氏は、秋本司元衆院議員の汚職事件をはじめ、数々の政治家が関わる事件を手掛け、「特捜検察の鬼」として知られている。黒川氏の賭け麻雀事件についても、当時東京地検特捜部長だった森本氏が指揮したとされている。

仕事における手腕や短い髪型から、周囲からは「パンチ森本」の愛称で親しまれていたという森本氏。しかし、その一方で、昔から強引な捜査手法でも知られており、2006年に元福島県知事が逮捕された汚職事件では、元知事の弟に対する取り調べにおいて、恫喝を繰り返したとして裁判で追及された過去もある。検事による取り調べの不祥事が後を絶たない現状において、そうした過去が指摘される森本氏をトップ級のポストに据えることについて、検察内部や法曹界から異論も根強く存在している。森本氏が正式に次官に就任するまでには、さらに一波乱ある可能性も指摘されている。

今回の検察トップ人事、特に次期検事総長が有力視される川原氏の就任と、その後任の法務省次官に内定した森本氏の動向は、今後の日本の司法や政治にも影響を与える重要な決定と言えるだろう。特に森本氏を巡る懸念の声もあり、今後の展開には注目が集まる。

【出典】
週刊文春 2025年7月10日号
Yahoo!ニュース掲載記事