現代の日本社会において、小学生の息子を持つ母親として、周囲の中学受験に向けた動きや塾通いの雰囲気に流されそうになる気持ち、そして息子さんの「絵を描くこと」への夢中さを見守りたい気持ちとの間で揺れ動くお悩みは、多くの保護者が共感するものでしょう。有名大学への進学が最良の道と信じられている空気の中で、「学歴」偏重の教育が本当に子どもにとって良いのか、子どもらしさを奪ってしまうのではないかという懸念は非常に切実です。教育における「学歴」の重要性について、改めて考える必要があります。
日本社会における根強い「学歴信仰」とその現実
「教育」と聞くと、「学歴」「偏差値」「進学実績」といった言葉がすぐに連想されるほど、日本社会には依然として強い「学歴信仰」が存在します。かつてほどではないにせよ、名門大学への進学が将来の安定につながるという考え方は根強く残っています。しかし、学歴と所得、そして幸福度には直接的な相関がないという研究結果も示されています。それでもなお、多くの保護者や教育関係者は、子どもたちを幼い頃から激しい受験競争の渦に巻き込んでしまう現実があります。これは、「学歴」こそが価値の全てであるかのように見なされていることの証左と言えるでしょう。
学歴だけにとらわれず、子どもたちの才能や個性を輝かせるイメージ
教育の真の目的は何か？偏差値への固執が生む弊害
教育の本来の目的は、「学歴を製造する」ことではありません。結果として学歴が得られることはあっても、それを唯一の目的に据えてしまうと、子どもの内に秘められた本来の才能や能力を引き出す機会を奪いかねません。偏差値という一つの指標だけで子どもの価値や進路を決定してしまうことは、多様な可能性を閉ざすことに繋がりかねないのです。子ども一人ひとりが持つ unique な spark や興味、関心を育むことこそが、教育が目指すべき本質ではないでしょうか。
「偏差値」という名の見えない洗脳から抜け出すには
私たち大人自身も、知らず知らずのうちに偏差値という概念に「洗脳」されている可能性があります。これを試す一つの例として、もし自分の高校3年生の子どもが、東京大学理科三類に楽々合格できるほどの学力がありながら、「大学には行かず、自分の本当にやりたい○○の道に進むための修行を積みたい」と強く決心して宣言したと想像してみてください。その時、あなたは「いいと思うよ、応援するよ！」と心から言えるでしょうか？それとも、「もったいない」「とりあえず大学に行ってから考え直したら？」と、学歴という安定したレールに乗せようとしてしまうでしょうか。
口では「やりたいことが一番大切」と言いつつも、いざ子どもの選択が世間一般の常識や「学歴」から外れた時、多くの親は動揺し、子どもの意思を尊重するスタンスを保つことが難しくなる現実があります。「もったいない」という感情から、子どもの学力だけで進路や将来の職業を決めてしまうことが、本当にその子にとって最善の道なのかを深く考える必要があります。
子どもの「その子らしさ」を大切にする教育への転換
学歴や偏差値といった表面的な指標に囚われるのではなく、子どもが何に興味を持ち、どんな時に目を輝かせ、どのような才能を伸ばしたいと感じているのか、その「その子らしさ」に光を当て、それを伸ばしていく教育こそが、子どもの将来の幸福度や充実感に繋がるのではないでしょうか。中学受験や大学進学といった進路選択も大切ですが、それが目的化するあまり、子ども自身の内発的な学びの意欲や探求心、そして何よりも個性や才能を潰してしまうことのないよう、常に子どもの声に耳を傾け、真に子どものためになる教育のあり方を問い続ける姿勢が求められています。
