米ホワイトハウスが先日公開したドナルド・トランプ元大統領と欧州首脳らが対面する写真が、国際社会で大きな注目を集めています。この写真は、トランプ氏がホワイトハウスの執務室で上席に座り、欧州の主要なリーダーたちが彼を取り囲むように扇形に配置されているという、象徴的な構図です。これは、わずか数年前には想像もできなかった米欧間の新たな力学を示唆しており、特にウクライナ情勢がこの関係性の変化に深く関わっていると分析されています。
ホワイトハウスが描く「力による平和」の構図
現地時間18日、ホワイトハウスはトランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領および欧州連合(EU)の首脳陣との会議を終えた後、ソーシャルメディアX(旧ツイッター)でこの写真を公開しました。写真では、トランプ氏が「決断の机(Resolute Desk)」の内側に着座し、スターマー英首相、メローニ伊首相、フォンデアライエン欧州委員長、メルツ独首相、マクロン仏大統領、ストゥブ・フィンランド大統領、ゼレンスキー大統領、ルッテ北大西洋条約機構(NATO)事務総長らが整然と並び、トランプ氏の方を向いて座っています。彼の背後には、ルビオ国務長官やベッセント財務長官といった側近らが控えており、普段トランプ氏が自らの参謀陣と会議を行う際と同様の配置が意図的に演出されました。
ホワイトハウスは、この写真にトランプ氏が好んで用いる「力による平和(Peace through strength)」という言葉を添え、「欧州の首脳らがトランプ大統領と共にした歴史的な日だ。トランプ大統領は平和の大統領」と説明しています。これは、精巧な交渉術よりも圧倒的な軍事力や経済力をもって相手に圧力をかけ、平和を達成するという、トランプ政権2期目の外交・安全保障路線を明確に象徴するものです。
ホワイトハウスのオーバルオフィスで欧州首脳らとウクライナ安全保障案について議論するトランプ大統領。新たな米欧関係の力学が表れている。
7年前の「1対6」対立:G7サミットの記憶
このホワイトハウスが公開した写真に対し、英インディペンデント紙は「トランプ大統領が問題児を叱っているようだ」「当惑するような『パワープレー』」と評し、交渉における優位性を誇示する戦略であると指摘しました。この評価は、7年前に開催された主要7カ国(G7)会議におけるトランプ氏の姿を考えると、「隔世の感」を抱かせます。
2018年6月にカナダのケベックで開催されたG7会議では、トランプ大統領と残りのG6首脳が、彼の政権が同盟国に対して発動した「関税爆弾」を巡り激しく対立しました。トランプ氏はG7共同声明の「関税障壁をなくそう」という文言に対し「同意したことはない」と公然と反論し、声明は採択に至りませんでした。
会談後にドイツ首相室が公開した一枚の写真は、当時のG7の深い亀裂をそのまま表していました。トランプ大統領が腕組みをして着座する一方、当時のメルケル独首相は彼に強く詰め寄るように視線を向け、その隣にはマクロン仏大統領や当時のメイ英首相が立っていました。このG7首脳間の「1対6」の対立構図について、海外メディアは「米国とG6国家の葛藤が深まった」(BBC)、「西側世界が守ろうとしていた価値が分裂した」(CNN)とまで報じ、その懸念を露わにしました。
ウクライナ戦争が変えた米欧の力学
わずか数年でトランプ氏に対する評価が180度転換した背景には、ウクライナ戦争が米国と欧州の間に生じさせた力学的な変化があります。BBCは昨年3月、「米国の軍隊なくして欧州はウクライナでロシアを防げるだろうか」という問いに対し、欧州各国の外交官の返答を引用して「ノー」と伝えました。さらに、現NATO事務総長は今年6月、ロシアが3カ月で生産する砲弾量がNATO加盟国全体の1年分に相当すると指摘し、EUの生産力不足を強調しました。
このように、米国の支援なくして欧州の安全保障を維持することが困難であるという現実が、トランプ氏の国際社会における地位を大きく変え、現在の新たな米欧関係の構図を生み出しているのです。
参考資料
- Yahoo!ニュース (元記事のソースリンク)