悲しい過去を共有し、真の夫婦へ 戯曲「月の獣」





舞台「月の獣」に出演しインタビューに応じる、俳優の眞島秀和さん(左)と岸井ゆきのさん(宮崎瑞穂撮影)

 米劇作家、リチャード・カリノスキーが第一次大戦中に起きた「アルメニア人虐殺」という歴史的悲劇を題材にした戯曲「月の獣」。1995年の初演から19カ国語に翻訳、20カ国以上で上演され、2001年にはフランス演劇界で最も権威ある「モリエール賞」を受賞した。日本では15(平成27)年に初演。初演と同じ栗山民也演出で東京・紀伊國屋ホールで12月7日から再演される。今回、出演している眞島秀和、岸井ゆきのが作品について語った。(水沼啓子)

 アルメニア人虐殺とは、本作の舞台となった19世紀末から20世紀初頭にかけ、イスラム教のオスマン帝国(現トルコ共和国)が少数民族で異教徒(キリスト教徒)でもあったアルメニア人の多くを強制移住させたり、虐殺したりした事件。特に第一次大戦中に起きた計画的で組織的なものを指すことが多い。

 「月の獣」は、第一次大戦終戦から3年後(1921年)、米国ミルウォーキーの質素な部屋の場面から始まる。両親、妹弟の命を奪われ、米国に単身、亡命したアルメニア人青年、アラム(眞島)と、アルメニアで孤児となり、アラムによって米国に呼び寄せられ、妻となったセタ(岸井)のほぼ二人芝居。夫19歳、妻15歳の借り物のような“夫婦”が、それぞれの家族を失うという痛みを分かち合いながら、真の夫婦になっていく人間の本質を描いた作品だ。

 眞島は、台本を初めて手にして「背負っているものが重く、高い壁が現れたと思った」と話した。一方、岸井は「台本を読んで、セタ役をやりたいと思った。15歳から27歳までを2時間半ほどの舞台で演じられるのは私にとっては挑戦」と前向きだ。

 アルメニアで起きたこの悲劇を知らなかったという岸井。たまたまテレビで映画を見ていて、ナチスの兵士が銃剣で人を突く場面を見たという。「その映像がすごくリアルに脳裏に焼き付いて…。衝撃的で、そういう場面を実際に見たら一生忘れられなくなるんだろうと思った」。トラウマを抱えたセタの役作りにも生かすという。

 信心深いキリスト教徒のアラムは子供がいる理想の家族を作ろうとするが、セタは期待に応えられないまま、月日が過ぎていく。アラムについて、眞島は「さまざまな背景を抱えているにしろ、仕事がうまくいくと喜んで家に帰ってきたり、妻のセタがヘソを曲げると慌てふためいたり。そんな男のかわいらしさは自分で演じていても楽しい」という。

 眞島は「翻訳劇で、アルメニア人の話で、一見、ハードルが高そうに思われるが、ある家族の温かい話なので、年末に見ていただくのにふさわしい舞台だと思う」とPRした。

 岸井は「舞台にはちゃんと語り部(紳士)がいて歴史も教えてくれる。見る側にとって、難しくない。まっさらな気持ちで見てもらっても十分に楽しめる作品」と紹介した。

 カリノスキーはアルメニア人虐殺そのものではなく、「その後の愛についての物語」と語っている。アラムとセタが徐々に心を開き、愛を育んでいく過程が見どころだ。

【あらすじ】1921年、生まれ育ったオスマン帝国の迫害により家族を失い、単身、米国に亡命した青年、アラム(眞島秀和)は、同じアルメニア人の孤児、セタ(岸井ゆきの)を妻として呼び寄せる。理想の家族を作ろうと強要するアラムに対し、まだ幼いセタは期待に応えられない。ある日、孤児の少年と出会い、少しずつ変わるアラム。やがて彼が大切に飾る顔の部分が切り抜かれた家族写真の謎が明らかになる…。

【チケット情報】東京公演は12月7~23日、紀伊國屋ホール(新宿区)。問い合わせはサンライズプロモーション東京、0570・00・3337(平日正午~6時)。新潟公演は同月25日、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館(新潟市)。問い合わせはイッセイプランニング、076・444・6666。兵庫公演は同月28、29日、兵庫県立芸術文化センター(西宮市)。問い合わせは芸術文化センターチケットオフィス、0798・68・0255。



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