紅海で先週、イエメンの反政府武装組織フーシ派による攻撃で貨物船が相次いで沈没し、乗組員に死傷者が出た。欧州連合(EU)が紅海で展開する作戦の部隊は9日までに、攻撃を受けた貨物船から乗組員6人を救助し、少なくとも3人の死亡を確認したと発表した。
詳細:貨物船「エターニティーC」攻撃の経緯
英海運貿易オペレーション(UKMTO)によると、リベリア船籍でギリシャの企業が運航する貨物船「エターニティーC」は7日、小型船から発射された携行式ロケット弾(RPG)によって甚大な損傷を受け、航行能力を完全に失った。
攻撃は8日にも続き、夜間にかけて捜索救助活動が行われた。
フーシ派が公開した貨物船「エターニティーC」攻撃・沈没を示す映像の一場面
フーシ派の主張と乗組員の状況
イランの支援を受けるフーシ派は、「エターニティーC」がイスラエルに向かっていたことを理由に攻撃したと主張している。また、乗組員の一部を「安全な場所」に移送したと述べた。
しかし、アメリカの在イエメン大使館は、フーシ派が「生き残った乗組員の多くを誘拐した」と非難し、即時の解放を求めた。
フィリピン当局によれば、乗組員25人のうち21人がフィリピン国籍だった。また、ロシア国籍の乗組員1人が攻撃で重傷を負い、片脚を失う被害を受けた。
相次ぐ攻撃:貨物船「マジック・シーズ」の事例
フーシ派による船の沈没は、「エターニティーC」が1週間で2隻目となる。6日には、同じくリベリア船籍でギリシャ企業が運航する貨物船「マジック・シーズ」が、ミサイルとドローン(無人機)による攻撃を受けた。
フーシ派は「マジック・シーズ」について、「占領下パレスチナの港湾への入港禁止措置に違反した企業に属している」として攻撃を正当化した。
8日にフーシ派が公開した映像には、武装したメンバーが船に乗り込み、複数の爆発を引き起こして沈没させる様子が映し出されていた。「マジック・シーズ」の乗組員22人は、通りかかった商船によって全員無事に救助されている。
紅海でのフーシ派活動の全体像
フーシ派は、2023年11月以降、紅海およびアデン湾で約70隻の商船に対し、ミサイル、ドローン、小型船などを用いた攻撃を繰り返してきた。これにより、これまでに4隻の船が沈没し、1隻が拿捕(だほ)され、少なくとも7人の乗組員が殺害されたとされている。
フーシ派は、イスラエルとガザ地区のイスラム組織ハマスの間で続く戦争において、パレスチナ人を支援する目的で行動していると主張しており、攻撃対象はイスラエル、アメリカ、イギリスに関連する船舶に限定するとしている。しかし、実際の攻撃は必ずしもこれらの関連性に基づいているわけではない。
国際社会の対応と非難
EUが紅海で展開する「アスピデス作戦」の関係者は9日、「エターニティーC」への攻撃に対する国際的な対応に参加していると発表し、「現在までに漂流していた乗組員6人を海上から救助した」と明らかにした。AFP通信は、救助された6人のうち5人がフィリピン人、1人がインド人であり、残る19人は依然として行方不明だと伝えた。
ギリシャに拠点を置く海事警備会社ディアプロウスは9日、少なくとも5人の乗組員を救助する様子を収めた映像を公開した。ロイター通信によると、乗組員らは24時間以上、海上にいたという。ディアプロウスは、「残る乗組員の捜索を日没まで続ける」とした。また、ロイター通信は複数の海事安全会社の情報として、今回の攻撃による死者数は4人に上ると報じている。
アメリカ国務省は、貨物船「マジック・シーズ」と「エターニティーC」に対する攻撃を強く非難し、「イランの支援を受けるフーシ派・反政府勢力が、航行の自由と地域の経済・海上安全保障に引き続き深刻な脅威を与えていることを示している」と述べた。さらに、「アメリカは明確な立場を取っており、フーシ派によるテロ攻撃から航行の自由と商業船舶を守るために、必要な措置を引き続き講じていく。このような攻撃は国際社会のすべての構成員によって非難されるべきだ」と強調した。
アメリカは、国際海運への攻撃への対応として、7週間にわたりフーシ派の拠点などを空爆してきた経緯がある。今年5月にはフーシ派と停戦合意に達したが、フーシ派はこの合意にイスラエルへの攻撃停止は含まれていないとしている。一方、イスラエルはフーシ派に対して複数回の報復攻撃を行っている。
国際海事機関(IMO)のアルセニオ・ドミンゲス事務局長は、今回の一連の攻撃を受けて、外交努力の強化を強く呼びかけた。ドミンゲス事務局長は、「数カ月の沈静状態の後、紅海で再び発生した非道な攻撃は、国際法および航行の自由に対する新たな侵害だ」と述べ、さらに「罪のない船員や地域住民が、こうした攻撃や、それに伴う環境汚染の最大の被害者となっている」と警告を発した。
参照元
- BBC News
- 欧州連合 (EU) 作戦部隊
- 英海運貿易オペレーション (UKMTO)
- イエメン駐留アメリカ大使館
- フィリピン当局
- ロイター通信
- ディアプロウス
- アメリカ国務省
- 国際海事機関(IMO)事務局長