超・高齢社会が進む日本において、介護・相続のトラブルは年々増える一方だという。遺産トラブルは何も富裕層だけの問題ではなく、遺産額の多さに関係なく、兄弟姉妹間で骨肉の争いが勃発しているのだ。自身も介護や相続を巡り身内と揉めたという著者が、相続争いの現実を綴る。※本稿は、姉小路 祐『介護と相続、これでもめる!不公平・逃げ得を防ぐには』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。
● 相続争いは 富裕層だけの問題ではない
ドラマや映画では、大富豪が亡くなって、莫大な遺産をめぐってドロドロの相続争いが展開するシーンがよく描かれるが、そういうケースばかりではない。
家庭裁判所が扱った相続事件のうち、遺産額が1000万円以下が33%、1000万円超から5000万円以下が43%と、その両者で4分の3以上を占めている(令和3年最高裁判所司法統計)。
つまり、遺産の多寡には関係なく、揉める家族は揉めると言える。しかも家庭裁判所に持ち込まれる遺産争いの件数は年々増加傾向にあり、20年前の約1.5倍の1万3447件になっている(同司法統計)。すなわち、誰の身に起こってもおかしくないものになってきている。
遺産相続というのは、被相続人が死んだという事情によって、家族または親族である者に財産が転がり込んでくる仕組みである。しかも遺産相続は、“不労による所得”という性質を基本的に持つ。
普通は、額に汗を浮かべて時間と労力をかけて働かなければ、報酬は手にできない。そして毎月の収入は、毎月の生活費で多くが消えていく。平凡なサラリーマンがまとまった金額を手にできる生涯の機会は、定年時の退職金と遺産相続の2つくらいしかないのだ。
サラリーマンでない職業なら退職金はないし、すべてのサラリーマンが退職金をもらえるとは限らない。あとは、きわめて確率の低い宝くじの当選くらいしかない。
つまり平均的な人間が、一生に1度か2度しかないまとまった財産獲得のチャンスが相続なのである。誰だってお金は必要だし、欲しいものである。霞を食って生きてはいけないのだ。
公的年金制度は、将来的には受給額の減少や受給開始年齢の引き上げが検討されているなど、見通しは明るくない。老後は年金以外に2000万円程度が必要とも言われているが、物価上昇を考慮すれば2000万円でも心もとないかもしれない。投資で増やしていく方法もあるが、リスクをともなうし、市場経済や国際情勢などを勉強することも必要になってくる。
ところが、遺産相続は、そういった勉強とは関係なく、“相続人”という立場だけで得られるのだ。その意味では、究極の不労所得とも言える。たとえ相続財産の総額が少なくても、濡れ手に粟の不労所得であるなら、誰しもが欲しがる。それも、少しでも金額が大きいほうがいいと思うのが、人間のサガとも言えよう。
● 兄弟姉妹の絆よりも 財産を優先するバカ者
長年にわたって相続問題を扱ってきた弁護士は「相続人の中に1人バカが入っていると調停はまとまらない。バカというのは、兄弟姉妹の絆よりも自分の財産的欲求を優先させる者のことだ」と筆者に述懐した。
相続は平等というのが大原則だ。平等に分けることで話がまとまるなら、調停にも訴訟にも至らないで済む。だが、それぞれの兄弟姉妹には、それぞれの歴史がある。
たとえば、長男は高卒で働かなくてはいけなかったが、次男は大学まで進学できた。三男はさらに大学院まで出ることができて、高収入の職業に就くことができた――といった状況は、長男にとっては不公平感のタネになるだろう。
同じ大卒でも、国立と私立では親に負担してもらった授業料の総額は違ってくる。
またたとえば、長女は結婚式や新婚旅行の費用を親に出してもらい、住宅資金も援助してもらい、産まれた子供は初孫としてお年玉やランドセルなどをたくさんもらった。