日本において高齢化が急速に進むにつれて、家族が介護の主な担い手となるケースが増加しています。この状況下で、親の介護をきっかけに精神的に追い詰められる人々が少なくありません。親の世話に耐えかね、第三者の生活支援サービスに「家族の代わり」を任せて「家族じまい」を検討する家族が増えていると言われています。特に認知症が進んだ親のケアを一人で抱え込み、自身も心身を壊して追い詰められていく子供たちが後を絶ちません。専門家は、問題が深刻化する前に専門機関へ相談することを強く推奨しています。
高齢化が進み、家族が介護の担い手となるケースは増える中、親の世話を機に精神的に追い詰められていく人が少なくない
増加する介護相談:LMNの取り組みと背景
こうした背景の中、一般社団法人LMN(東京)のような専門機関への相談が増加しています。2016年に設立された同法人は、当初は身寄りのない高齢者の生活支援を目的としていましたが、「毒親」という言葉が社会に浸透し始めた約3年前から、「親の看取り」に関する相談が顕著に増えました。そして2024年3月には、親の介護や看取りまでを代行する専門相談窓口「家族じまいドットコム」を立ち上げています。LMNの代表理事である遠藤英樹氏(57)は、「高齢になった両親などの介護をめぐって精神的に追い詰められ、相談先がなく悩みを抱える人が増えています」と現状を語ります。LINEでの相談は月200件以上に上り、特に親の介護や過干渉に悩む40~50代の団塊ジュニア世代が中心で、近年は男性からの依頼が急増しているのが特徴です。
「家族代行サービス」が提供する支援
LMNが提供するサービスは、介護や買い物、洗濯、通院の付き添いといった日常的な支援から、親が亡くなった後の葬儀や納骨の手配、さらには実家の片付けや遺産整理に至るまで多岐にわたります。介護は資格を持った専門スタッフが行い、依頼者である子供には、希望に応じて状況が伝えられます。サービスの料金は初期費用が55万円、以後1回の利用(4時間程度まで)につき1万3500円(交通費込み)となっており、決して安価ではありません。しかし、多くの依頼者は、この費用が親から解放される「精神的な自由」と「時間」を買うものだと考えています。現在、関東、関西、東海地方を中心に約350人がこのサービスを利用しており、需要の高まりを示しています。
「家族じまい」を選択した声:精神的負担からの解放
父親の介護に苦しんでいた都内に住む50代の男性会社員の事例は、このサービスの利用動機をよく表しています。彼は3年前に母親を亡くした後、70代の父親に認知症の傾向が見られ始め、態度が激変。マイナンバーカード作成を巡って「金を下ろそうとしている」と罵られたり、包丁を持ち出して脅迫されたりするまでになり、一人で問題を抱え込んだ結果、精神的に追い詰められて不眠症になり、仕事にも支障をきたしていました。悩んだ末、彼はLMNにすべてを委ねることを選択しました。LMNは父親の施設への入退院手続きから、逝去後の葬儀、納骨、さらには実家や遺品の整理まで代行しました。男性は「父親に関するすべての電話がかかってこなくなったので、精神的にものすごく楽でした」と、サービス利用による解放感を語っています。
「家族じまい」の真意:断絶ではない新しい関係性
LMNの遠藤代表は、このサービスが必ずしも親子関係を断絶させるものではないと強調しています。サービスを「家族代わり」として利用することで、親子間に新たな距離感や関係性が構築され、双方が納得できる形での「家族じまい」を目指していると言います。遠藤氏は、「本来、私たちのような仕事はあってはならないもの」と認めつつも、「核家族化や一人っ子の増加といった現代社会の変化の中で、家族の関係性を円滑に進めるためには必要不可欠な存在でもあると思っています」と、サービスの社会的な意義を語りました。
育児と介護の重圧:ダブルケアの現実
介護負担は、親世代だけでなく、自身の育児とも重なる「ダブルケア」の形で現れることもあります。都内に住む自営業の45歳の女性は、10年ほど前に手術の失敗で要介護となった父親と、認知症の診断を受けた母親(当時は70代)の介護を一人で担ってきました。6年前にシングルマザーとして子どもを出産した彼女は、育児と介護の二重の負担に直面しました。実家近くに住み両親の介護を続けていましたが、父親は要介護5となり、認知症が進んだ母親は徘徊が始まったため、次第に精神的に追い詰められ、「死ねばいいのに」と両親に対して思うほど追いつめられていった経験を明かしました。
結論:早期相談の重要性
高齢化に伴う介護負担は、多くの家族、特に団塊ジュニア世代にとって深刻な社会問題となっています。親子関係の複雑化や核家族化が進む中で、従来の家族内での支え合いだけでは対応しきれないケースが増え、「家族じまい」や第三者サービスへの依頼といった新たな選択肢が生まれています。しかし、こうした状況に至る前に、抱え込まずに専門機関や相談窓口に早期に相談することが、家族の負担を軽減し、より良い解決策を見出す上で非常に重要であると専門家は指摘しています。
参照
https://news.yahoo.co.jp/articles/9f677050573478abcd7d4373cb2610d238d430a2