参院選の改選数2議席以上の選挙区(複数区)は、自民党が議席を失うと「政権交代になりかねない」と言われるほど、その強さを示す象徴的な場とされてきた。自民党がすべての複数区で1議席以上を獲得できなかったのは、民主党が圧勝し政権交代につながった2007年までさかのぼる。この時も推薦候補は当選している。自民党公認候補が複数区で敗北し、議席を獲得できなかったのは、橋本龍太郎首相が退陣した1998年参院選以来、21世紀には一度も起きていない。しかし、今回の参院選では、この自民党の牙城である複数区で苦戦する候補が多く、その一つが京都選挙区(改選数2)だ。
京都選挙区の状況と西田氏の背景
自民党は京都選挙区で、現職の西田昌司氏を擁立している。西田氏は当選3回を数え、そのうち2回は2位候補を大きく引き離してトップ当選を果たすなど、京都において強固な支持基盤を持つとされてきた。また、京都選挙区自体も、自民党が1955年の結党以来、議席を失ったのが1998年参院選のわずか1回だけという、保守地盤として知られている。
西田氏にのしかかる「二重の逆風」
盤石と思われた西田氏だが、今回の選挙戦では強い逆風に直面している。一つ目は、「ひめゆりの塔」に関する発言だ。西田氏は5月に沖縄県でのシンポジウムで、沖縄戦で犠牲となった学徒隊を慰霊する「ひめゆりの塔」の説明について「歴史の書き換え」だと発言し、批判が殺到、後に発言の撤回と謝罪に追い込まれた。二つ目は、政治資金パーティーを巡る「裏金問題」だ。西田氏は旧安倍派所属議員として、411万円のキックバックを受けていた「裏金議員」の一人として名前が挙がっている。これらの問題に対する有権者の審判を受ける選挙となっている。
参院選京都選挙区で立候補している自民党の西田昌司氏
候補者自身の危機感と地元の声
街頭演説でマイクを握る西田氏からは、かつての強気な姿勢は影を潜めている。「4回目の選挙で、一番厳しい」「混迷の渦の中、誰が勝つかわからない京都選挙区。大きな大きな嵐と風が私の前に立ちふさがっています。助けてください、どうか私に力を与えてください」と、異例とも言える悲痛な訴えを繰り返している。自民党の京都府議も「昨年の衆院選や先月の東京都議選でも見られたように、『裏金議員』への逆風は今も強い。そこに『ひめゆり発言』の逆風が重なり、『ダブルの逆風』になっている」と明かす。これまでの支持者からも批判の声が多く、応援に入ってもやりづらい状況だという。さらに、他党が京都に知名度のある有力候補を擁立していることも、自民党にとって苦しい要因となっている。「強気で知られる西田氏が『助けて』と演説するほど」という状況が、京都選挙区の厳しさを物語っている。
参院選京都選挙区で街頭演説を行う維新候補。吉村代表の姿も見える
まとめ:京都の戦いが示すもの
「裏金問題」と「ひめゆり発言」という二重の逆風を受け、自民党の強固な地盤であった京都選挙区で、現職の西田昌司氏が苦戦を強いられている。かつてはトップ当選を果たした候補者が「一番厳しい」「助けてください」と訴える状況は、自民党が今回の参院選複数区で直面している困難を象徴的に示している。京都という牙城が揺らぐのか、それとも自民党が議席を守り切るのか。この選挙区の結果は、自民党の今後の選挙戦略や党勢を占う上で、重要な試金石となるだろう。