中国自動車メーカーの度重なる「仮ナンバー」不正利用:日本での違法走行の実態

公道を走行する車両には、適切なナンバープレートの装着が義務付けられています。しかし、登録されていない車や車検切れの車でも、特定の条件下で一時的に公道を走行することを許可する「仮ナンバー」(臨時運行許可番号標)が存在します。その厳格な使用条件にもかかわらず、近年、中国の自動車メーカーやメディアがこの制度を悪用し、日本国内で度重なる違法走行を行っている実態が明らかになっています。これは単なる規約違反に留まらず、日本の法規に対する軽視と捉えられかねない深刻な問題であり、関係当局による早急な対応が求められています。

仮ナンバー制度の概要と厳格な利用条件

「仮ナンバー」には大きく分けて2種類が存在します。一つは市役所や区役所が発行する、赤い斜線が入った「臨時運行許可番号標」です。これは一般の個人も申請可能ですが、その使用目的は極めて限定的です。具体的には、車検のための整備や車検場への移動、ナンバープレートの盗難・紛失による再交付手続きのための移動など、やむを得ない場合にのみ許可されます。目的外での使用は道路運送車両法違反となり、同法第108条第1号に基づき、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。また、申請時に目的や経路に関して虚偽の内容を記載した場合も、同法第107条第1号により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

もう一つは、ディーラーなどの販売業者が使用する、国土交通省地方運輸局発行の赤い枠で囲まれた「回送運行許可標」です。これらはどちらも、試乗や動画撮影といった営業・広報活動を目的とした公道走行には使用できません。

吉利汽車と「30秒懂車」による首都高での違法走行

中国の大手自動車メーカーである吉利汽車(ジーリー)と、中国の人気動画メディア「30秒懂車(ドゥン・チャー)」は、2024年7月上旬、日本の公道で重大な違法走行を行いました。彼らが計画したのは、トヨタ・プリウスが持つ世界最高燃費記録(39.6km/L)に、吉利汽車の最新モデル「ギャラクシーA7」で首都高速道路を使い燃費対決をするという企画でした。

しかし、この企画のために持ち込まれたギャラクシーA7は、先に述べた「臨時運行許可番号標」を装着して走行していました。燃費対決企画は、仮ナンバーが許可する「車検のための移動」などの目的とは全く異なるため、これは明確な道路運送車両法違反に該当します。

吉利汽車ギャラクシーA7が仮ナンバーを付けて港北インターから首都高速道路に入り、ETCがないため現金で料金を支払う様子。吉利汽車ギャラクシーA7が仮ナンバーを付けて港北インターから首都高速道路に入り、ETCがないため現金で料金を支払う様子。

「自作自演」疑惑と背景

さらに、この企画の立案過程には疑念が残ります。「30秒懂車」は、SNSに突然「吉利よりもトヨタやホンダが優れている!」という日本語のリプライが大量に寄せられたため、その検証のためにこの対決企画を開催したと説明しています。しかし、筆者が確認したところ、コメントを送信したアカウントの多くが、他の投稿が一切ない「捨てアカ」であることが判明しました。これは、企画を盛り上げるための壮大な「自作自演」である可能性が高いことを示唆しています。

こうした背景にもかかわらず、6月18日に「30秒懂車」が中国のSNS「ウェイボー」で燃費対決企画を予告すると、この投稿は1300回以上もリポストされ、日本に対する差別的な表現を含む吉利汽車への応援コメントが多数寄せられました。そして7月2日、ギャラクシーA7は仮ナンバーのまま首都高速中央環状線を100km走行し、その様子が撮影されました。公開された動画の説明欄には「挑戦コースは日本の有名な首都高速環状線C2号線で1周50kmです。今回は2周で合計100kmを走りました。最終的な燃費でプリウスを上回り、『最高燃費』記録を破ることができました」と記され、プリウスを大幅に上回る好燃費を記録したと主張されました。しかし、ギャラクシーA7がPHEV(プラグインハイブリッド)であるのに対し、プリウスはガソリンハイブリッドHEVであり、パワートレインが全く異なる車両同士を比較する時点で、企画そのものの条件が破綻していると言わざるを得ません。

過去にも繰り返された不正行為

吉利汽車と「30秒懂車」によるこのような違法行為は、今回が初めてではありません。昨年5月末にも、同様の不正が行われていました。最新のHEVモデル「星瑞L」と「星越L」を日本に持ち込み、茨城県の筑波サーキットや群馬県の榛名山で試乗会を実施。さらに、東名高速道路などで宣伝動画の撮影も行われていました。この際も、仮ナンバーを装着した状態での走行であり、これが後に大きな問題となり、仮ナンバーを用意した日本の自動車整備業者には、国土交通省関東運輸局から行政処分が下される事態となりました。

今回の件について、吉利汽車と「30秒懂車」、そして仮ナンバーの提供に関わったとされる整備業者に取材を申し込んだところ、それぞれの立場から以下の回答がありました。

  • 「日本での動画撮影についてはすべてメディア(30秒懂車)に任せている」(吉利汽車)
  • 「日本で撮影が可能なナンバープレートは整備業者が手配しているので我々にはわからない」(30秒懂車)
  • 「今年は撮影用に3台の車両(ギャラクシーA7)を用意した。回送用のディーラーナンバーだけ、うちで用意したがこのナンバーでは公道走行しておらず移動は積載車に積んでいた。あとの2台の仮ナンバー(横浜と大田区)は別の業者が申請したもので、私はわからない」(整備業者)

吉利汽車、30秒懂車、そして整備業者の3社はいずれも「自分たちに非はない」と主張し、責任の所在を明確にしませんでした。

関係者の責任転嫁と国交省・警察の対応

度重なる仮ナンバーの不正使用が今年も行われたことに対し、国土交通省はどのような見解を示しているのでしょうか。自動車情報課への取材では、次のような回答が得られました。

「横浜市が貸し出している臨時運行番号標であるため、同市に情報提供をするとともに、該当の番号標の貸し出し状況を聴取したいと考えます。一方、自治体が貸与する臨時運行許可番号標の不正利用に対して弊省が処分や罰則を与える権限を有していないことから、横浜市に神奈川県警へ相談するべきではないか助言をしたく考えております」

今回の吉利汽車/30秒懂車以外にも、中国メーカーによる仮ナンバーを不正に装着しての動画撮影事例は存在します。数年前には別のメーカーである上汽通用五菱と自動車メディアの易車が同様の行為を行っています。さらに2024年7月5日には、易車が奇瑞汽車(チェリー)とコラボし、仮ナンバー(ディーラーナンバー)で高速道路を運転する様子を発表しました。この際も、身元が特定されないようモザイク処理が施されていました。

常態化する中国メーカーによる不正利用への懸念

残念ながら、中国のメディアやメーカーによる日本の法律違反を伴う運転が常態化しているのが現状です。これは日本の法制度が軽視され、「日本がナメられている」とさえ言える状況であり、看過できません。今年も国土交通省は関係者に何らかの処分を下すのか、また警察はどこまでこれらの不法行為を認識し、取り締まりを行っているのか。大きな事故が発生してしまう前に、警察や国土交通省、そして各運輸局は、こうした公道での不正走行に対する取り締まりを早急に強化すべきです。日本の公道の安全性と法規遵守の原則を守るためにも、関係機関の連携と厳格な対応が強く求められています。

参考文献

  • FRIDAYデジタル
  • Yahoo!ニュース