フランスで長期間にわたる過酷なライブ配信中に死亡したとされる男性ストリーマーの事件を巡り、警察が暴行および虐待の容疑で本格的な捜査に乗り出した。この事件は、オンライン配信の倫理と安全に関する議論を再燃させている。
ジャン・ポルマノーブ、通称JPことラファエル・グラベン氏(46歳)は、ほぼ12日間にわたる配信の最中に死亡が確認された。グラベン氏は「Kick」をはじめとする複数の配信プラットフォームで100万を超えるフォロワーを抱え、ゲーム実況や極限状態での挑戦企画で広く知られていた。
グラベン氏は2023年以降、他のストリーマーらと共同で配信を行うようになり、最後のライブ配信にはオウェン・セナザンドッティ氏(通称ナルト)とサフィーヌ・アマディ氏が同席していた。
グラベン氏の死亡は、2月18日にセナザンドッティ氏が自身のインスタグラムを通じて発表した。ライブ配信の映像には、グラベン氏が動かなくなったとされる瞬間が映り込んでいたとみられ、視聴者からの投げ銭によって、同じ部屋で就寝していたセナザンドッティ氏らにグラベン氏の異変が知らされたという。
ニース検察はCNNの取材に対し、グラベン氏の死因究明に向けた捜査の開始と検視の実施を認めた。現時点では、関係者の逮捕・立件には至っていない。
ライブ配信中の虐待で死亡したとされるフランス人ストリーマー、ラファエル・グラベン氏の肖像
過去の配信から浮上する虐待の証拠と収益構造
CNNが過去の数十本のライブ配信動画を検証した結果、グラベン氏がいじめや暴行を受け、屈辱的な行為を強いられていた可能性が示唆されている。共同配信の映像には、他のストリーマーがグラベン氏の首を絞める時間を競ったり、ペイント弾で撃ったり、水を浴びせたりする場面が確認された。
これらのグループは、視聴者からの投げ銭(スーパーチャット)によって収益を得ていた。グラベン氏の最後の配信では、約300時間にわたる配信で約3万6000ユーロ(日本円で約620万円)もの収益があったことが、画面に表示された数字から読み取れる。
被害者の健康状態と監禁の訴え
グラベン氏の弁護士がCNN提携局のBFMTVに語ったところによると、グラベン氏には心血管系疾患の持病があったという。
配信動画の中では、グラベン氏が薬の服用を訴える場面や、セナザンドッティ氏がグラベン氏の母親宛てのメッセージを読み上げる場面も確認されている。このメッセージには、グラベン氏が共同ストリーマーによって「監禁されている」と訴え、配信される「ゲーム(企画)が行き過ぎている」という内容が含まれていた。また、グラベン氏が共同ストリーマーに毛を剃られたことを巡り、母親が憤りを示す場面もあった。
これに対し、セナザンドッティ氏側の弁護士は、グラベン氏の母親の登場は「やらせ」であり、セナザンドッティ氏がグラベン氏の死とは無関係であると主張している。セナザンドッティ氏は、グラベン氏に対して行われた行為は全て演出に過ぎなかったと弁護している。さらに、セナザンドッティ氏はグラベン氏の死亡以降、インターネット上で嫌がらせを受けているとして被害届を提出した。
当局の対応とプラットフォームの措置
BFMTVの報道によると、セナザンドッティ氏とアマディ氏は今年1月にも、弱者への屈辱に関わる別の事件で警察の捜査の一環として一時的に拘束されていた経緯がある。
フランスのクララ・シャパズAIデジタル担当相は2月19日、自身のX(旧Twitter)に「グラベン氏はあまりにも恐ろしい暴力を受けていた」「Kickプラットフォームで数カ月にもわたり屈辱を受け、虐待されていた」と投稿し、今回の事件に対する強い懸念を表明した。
これを受けて、配信プラットフォームのKickは2月20日、捜査が進行している間、今回のライブ配信に関わった全ての関係者の利用を禁止する措置を講じたことを発表した。
まとめ
今回のフランス人ストリーマー死亡事件は、オンラインコンテンツ制作における倫理的境界線、視聴者の関与、そしてプラットフォーム運営者の責任に深刻な問いを投げかけている。投げ銭という収益構造が過激なコンテンツを助長する可能性や、参加者の健康と安全が脅かされるリスクが浮き彫りになった形だ。警察による捜査の進展と、今後の法的措置、そしてオンライン配信業界全体での再発防止策の確立が強く求められる。
参考文献
- CNN
- BFMTV
- X (旧Twitter) – フランスAIデジタル担当相 クララ・シャパズ氏の投稿
- Kickプラットフォーム公式発表