【ロンドン=黒瀬悦成】トランプ米大統領は、ロンドンで開かれた北大西洋条約機構(NATO)の創設70周年を記念する首脳会議で、NATO擁護の旗振り役の役回りを演じた。NATOを「時代遅れ」と断じて米国の脱退すら示唆したこれまでとは打って変わった姿勢をみせた。しかし、トルコによるシリア北部での軍事作戦を機に表面化した加盟国間の亀裂が修復されたとはいえず、同盟の結束に課題を突きつけた。
■「時代遅れ」一転…「支出不十分だ」
トランプ氏は3日、首脳会議に先立つフランスのマクロン大統領との会談の冒頭、自身が大統領に就任して以降、NATO加盟各国の国防費支出が総額で「130億ドル(1兆4115億円)も増えた」と記者団に強調。「支出はまだ不十分だ」とし、各国が総額で400億ドルまで支出を拡大させることに期待を示した。
トランプ氏は4日、ドイツのメルケル首相との会談でもドイツが国防費支出を目標の国内総生産(GDP)比2%までの早期の引き上げを訴えたもようだ。
トランプ氏は「NATOには柔軟性がある」とも指摘。従来の旧ソ連とロシアだけでなく、イスラム過激主義によるテロや中国の脅威、イランなどの世界秩序を揺るがす行為に集団的に対処すべきだと訴えた。
■マクロン氏も、エルドアン氏も…
だが、マクロン氏はトランプ氏の横で、以前に英誌とのインタビューで「NATOは脳死状態にある」とした発言を撤回しない立場を示して、発言を「非常に無礼」「危険」などと非難したトランプ氏に対抗する姿勢を打ち出した。マクロン氏の「脳死」発言は、加盟国のトルコが一方的にシリアで軍事作戦を実施したことに、米国など他の加盟国が適切に対応できなかったことなどを指す。
一方、トルコのエルドアン大統領は首脳会議出席に際し、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討で米軍と一緒に戦ったシリア民主軍の主要組織、クルド人部隊「人民防衛部隊」(YPG)を加盟各国が「テロ組織」に認定するよう要求した。
ホワイトハウスによるとトランプ氏は4日、エルドアン氏と会談し、「トルコが同盟国としての役割を果たすことの重要性」について話し合った。
トランプ氏はトルコをNATOにつなぎ止めたい意向を示しつつ、同国のロシア製防空システム購入に関しては制裁の検討を表明するなど、同盟の70周年を記念するはずの首脳会議はむしろ、新たに浮上した困難な課題を浮き彫りにした。