約30年前、ビデオゲームとして一世を風靡した「テトリス」は、そのシンプルなルールと奥深い戦略性で世界中のプレイヤーを魅了してきました。しかし近年、その全盛期をとうに過ぎたにもかかわらず、テトリスプレイヤーの技術がかつてないほどに急激な進化を遂げていることをご存じでしょうか。ゲーム機の表示限界である最高スコア99万9999点を、多くの熟練プレイヤーがクリアし始めたのです。この驚くべきテトリスプレイヤーの進化と、その背後にある要因について深く掘り下げていきます。
テトリスのカラフルなブロックが積み重ねられたゲーム画面のイメージ
18歳少年がテトリス30年の歴史を塗り替えた快挙
2020年2月15日、ジョセフ・セーリーはいつものようにテトリスのゲームを開始しました。象徴的な多色のブロックが約1秒に1個のペースで落下し始めますが、彼は動じることなく、オンラインストリーミングのプラットフォーム上でフォロワーたちと軽快におしゃべりを楽しんでいました。
ゲームがレベル19に達すると、会話のペースは落ち、セーリーは集中力を高めます。各ブロックが底に着くまでの約0.7秒という極限の間に、最適な位置を見つけて誘導しなければなりません。次のブロックの形状を示す表示に目を向け、予測不可能な状況が続く中で唯一の「息継ぎ」として活用します。
目まぐるしいペースでさらに9つのレベルをクリアすると、ブロックの落下速度はさらに倍増。ブロックは画面に現れるや否や、瞬時に画面の底に到達する「レベル29」の領域に突入します。このステージをクリアすると、レベルカウンターが誤作動を起こし、「29」から「00」に変わりました。これはゲーム開発者が、誰もここまで到達しないと考えていたことの証左です。
まるでトランス状態に入ったかのように、セーリーは指を動かし、コントローラーのボタンを1秒間に10回以上叩き続けます。彼は各ブロックを完璧に配置し、画面がブロックで埋め尽くされないよう、素早く空間を確保していきました。
数分後、初めてのミスを犯します。間違えて配置された1つのブロックが列の上にそびえ立ち、あっという間にブロックが画面を埋め尽くしてゲームオーバーとなりました。しかし、セーリーは笑顔を浮かべていました。彼はテトリスという史上最も人気のあるビデオゲームのひとつの30年にわたる歴史の中で、誰も成し遂げたことのないレベル34にまで到達したのです。そのときセーリーは、まだたったの18歳でした。
「不可能」とされたキルスクリーンとマックスアウトの壁
ジョセフ・セーリーがテトリスの達人であることは間違いありません。しかし、驚くべきは、彼がこのゲームに夢中になった第1世代のプレイヤーたちをはるかに凌駕しているという事実です。
テトリスの「レベル29」は、長らくプレイ不可能だと考えられてきました。ブロックの落下速度があまりに速いため、左右のボタンを押し続けても、ブロックが底につくまでの間に端まで移動させることができないためです。ブロックを消すにはそれを水平に1列並べる必要があることから、ファンたちはこのレベルを「キルスクリーン」というニックネームで呼び、プレイ不可能とみなしていました。
また、1回のプレイで最高スコアの99万9999点に達する「マックスアウト」も、初期のプレイヤーたちが長年追い求めた偉業でした。しかし、最初にこのマックスアウトが記録されたのは、ゲームの発売から20年後、ハリー・ホンが達成したときでした。この偉業は当時、まさに伝説として語られました。
衰退期ゲームの驚異的なスキル向上現象
対照的に、ジョセフ・セーリーは2020年のあるトーナメントにおいて、驚くべきことに12回もマックスアウトを達成しています。さらに言えば、セーリーのテトリスの腕前が特別というわけでもありません。同じトーナメントで、セーリーの他にも実に40人ものプレイヤーが最高得点に到達していたのです。
では、なぜ全盛期をとうに過ぎ、もはや最新のゲームではないテトリスが、これほどまでに優れたプレイヤーを次々と生み出すようになったのでしょうか?これは、ゲーム自体の進化ではなく、プレイヤー自身のスキルと学習能力の限界が押し広げられている現象を示唆しています。人々は練習を積み重ねることで、かつては想像すらできなかったレベルの熟練度を身につけることができるのです。この現象は、人間がどのような分野においても、継続的な努力と学習によってその能力を飛躍的に向上させられる可能性を示しています。
まとめ
テトリスの歴史は、ビデオゲームの進化だけでなく、人間のスキルの限界がどのように広がり続けるかを示す興味深い事例です。かつては不可能とされた「キルスクリーン」の突破や「マックスアウト」の連発は、熟練のプレイヤーたちが単なるゲームのルールを超え、自身の反射神経、判断力、そして学習能力を極限まで引き上げた結果と言えるでしょう。これは、どんなに古い分野であろうと、深い探求と実践によって新たなレベルの習熟度が達成され得るという「マスタリーの法則」の好例であり、人間に秘められた無限の可能性を私たちに教えてくれます。
参考文献
『SENSEFULNESS(センスフルネス)どんなスキルでも最速で磨く「マスタリーの法則」』(スコット・H・ヤング著、小林啓倫訳、朝日新聞出版)