ロシア、トランプのウクライナ兵器供与発表に核戦略ドクトリンで牽制

ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は、ドナルド・トランプ米大統領がアメリカと北大西洋条約機構(NATO)同盟国がウクライナに先進兵器を供与すると発表した直後、ロシアの核戦略ドクトリンが「依然として有効である」と改めて強調しました。この発言は、ウクライナ情勢と米露関係の緊迫化の中で、世界の核兵器保有国であるロシアの姿勢を明確にするものです。本件に関して、米国務省およびロシア外務省は本誌からのコメント要請に回答していません。

緊張高まる米露関係とトランプ大統領の政策転換

2022年2月にロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を開始して以来、ロシアとNATO加盟国間の緊張は激化の一途をたどり、世界最大の核弾頭保有国であるロシアによる核兵器の使用という脅威が繰り返し取り沙汰されてきました。

トランプ前大統領は、在任中および退任後もバイデン現政権とは異なる対ロシア、対ウクライナ政策を採用し、ロシアとの直接的な対話を重視する姿勢を見せていました。その一方で、ウクライナやその支援国に敵対的な発言や軍事支援停止の脅しをかけることで、ウクライナを取り巻く国際情勢を不安定化させてきた経緯があります。しかし、7月14日、トランプ氏は突如として、ヨーロッパの同盟国がウクライナ防衛のために数十億ドル規模のアメリカ製軍備を購入できるようにすると発表。これは、それまでの姿勢からの明確な転換として注目されています。

ロシア核戦略ドクトリンの具体的な内容と改訂

ロシアの核戦略ドクトリンには、ロシアまたはその同盟国に対する「核保有国の支援を受けた非核保有国による侵略」は「共同攻撃」と見なされるという規定が含まれています。これは、外部からの支援を受けた国による攻撃を、核兵器使用の引き金となり得る重大な事態と捉えることを示唆しています。

さらに、プーチン大統領は2024年12月にこの核戦略ドクトリンを改訂しました。改訂後のドクトリンでは、核抑止力の行使に関する基準が実質的に引き下げられ、ロシアは「自国または同盟国に対して使用された核兵器またはその他の大量破壊兵器」に対し、核兵器で対応する権利を有することが明記されています。この改訂は、核兵器使用の敷居が低くなった可能性を示唆しており、国際社会の懸念を招いています。

核のボタンに手をかざすイメージ。ロシアがウクライナ侵攻以来、核の脅威を繰り返し示唆する現状を表す。核のボタンに手をかざすイメージ。ロシアがウクライナ侵攻以来、核の脅威を繰り返し示唆する現状を表す。

ロシアの和平交渉への期待と兵器供与の詳細

タス通信によると、ペスコフ報道官はアメリカに対して、ウクライナに和平交渉の再開を促すよう呼びかけました。同報道官は「この件における主要な仲介努力はアメリカ、特にトランプとそのチームによるものだ。(アメリカが出したウクライナ侵攻に関する)多くの声明に対して、(ロシア国内では)失望の声が相次いでいるが、ウクライナにも(アメリカが)圧力を加えることを期待する」と述べ、トランプ政権がウクライナに外交的解決を促す役割を果たすことへの期待を示しました。

7月14日、トランプ氏はホワイトハウス執務室で、「アメリカは最新鋭の武器を製造し、それをNATOに送る」と発言。NATOのマルク・ルッテ事務総長は、今回アメリカから送られた武器にはミサイル、弾薬、防空兵器が含まれると説明しました。トランプ氏も、ロシアによる民間施設への無人機・ミサイル攻撃への防衛手段として重要なパトリオットミサイルが「すでに出荷されている」と発表しています。ウクライナに供与される軍備は現状、すべて既存の備蓄から提供される予定です。

ロシアによる核戦略ドクトリンの再強調は、トランプ政権のウクライナ支援強化への明確な反応であり、国際情勢が引き続き核の脅威と外交交渉の狭間で推移していることを示しています。今後の米露関係、NATOの動向、そしてウクライナにおける和平交渉の可能性が注目されます。

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