ロシア法務省が公開する「外国代理人」リストには、2025年7月18日時点で1040もの個人や組織、団体が掲載されています。このレッテルは「国民の敵」と位置付けられることを意味し、対象者は活動が著しく制限され、収入も事実上絶たれます。にもかかわらず、こうした抑圧にも屈せずロシア国内に留まり活動を続ける一人の男性がいます。彼が直面する現実と、その活動の背景に迫ります。(ANN取材団)
ロシアの裁判所に向かう男性の姿。外国代理人に指定された人々の厳しい状況を示す。
常に携帯する「もしもの時」のためのカバン
男性は、弁護士の電話番号を記した紙と共に、数日分の着替え、常備薬、本、そして重要書類などを詰め込んだカバンを常に手元に置いています。これは旅行や出張のための準備ではありません。拘置所での最初の数日間を乗り切るための備えであり、ロシアの野党政治家や反体制派にとって、今や日常的な光景となりつつあります。
このような生活が始まったのはおよそ1年前、ある夏の美しい日差しの下での出来事でした。男性が公園のベンチに座っていると、スマートフォンに親しい弁護士からのメッセージが届きました。「法務省のサイトを見てください。これは立派な人物の証ですよ！」その日が毎週金曜日に「外国代理人」リストが更新される日だと気づいた男性は、著名なジャーナリストや俳優、コメディアンらの中に自分の名前を見つけたのです。
拡大し続ける「外国代理人」の定義
「外国代理人」制度は、ウラジーミル・プーチン氏が首相から再び大統領に就任した2012年に導入されました。「カラー革命」や「アラブの春」と呼ばれる旧ソ連圏や中東での民主化運動の背後に欧米諸国の支援があるとプーチン政権が疑い、その資金源を断ち切ることを目的としていました。当初、この法律は外国からの資金提供を受け、外国の利益となる政治活動を行う非営利団体を主な対象としていました。
しかし、制度の適用範囲は年々拡大し続けています。現在では、外国からの資金提供を受けていない慈善活動であっても、「ロシアの価値に反する」と当局が判断するだけで、個人・組織を問わず「外国代理人」に指定される可能性があります。何が「ロシアの価値」に当たるのかという基準は、当局の裁量次第であり、極めて曖昧です。
この男性は、自身がスパイであることも、外国から資金援助を受けた覚えもないと断言します。彼は最近、志を同じくする政治家仲間と共に政治団体を立ち上げました。その活動の主眼は、中央集権化によってほぼ完全に形骸化してしまった地方自治の復活を目指すことにあります。彼は、今のロシアを変えるためには、あからさまに弾圧される反戦運動のような活動ではなく、地道に国民の政治参加を再構築することが唯一の有効な手段だと考えています。皮肉にも、彼の活動は当局に危険視されたのでしょう。彼の仲間の政治家も、わずか2週間前に同じく「外国代理人」に認定されています。
ロシア法務省のウェブサイトに掲載された「外国代理人」リストのスクリーンショット。
結論
ロシアにおける「外国代理人」制度は、本来の目的を超え、政権に批判的な市民活動や言論の自由を抑圧する強力なツールとして機能しています。この制度により、多くの人々が「国民の敵」という不当なレッテルを貼られ、生活基盤や社会的な立場を脅かされています。にもかかわらず、自らの信念に基づき、より良い社会を目指して活動を続ける人々の存在は、困難な状況下での希望を示しています。彼らの挑戦は、ロシア社会の現状を理解する上で重要な視点を提供しています。
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