私たちの食生活が心臓の健康に深く関わっていることは広く知られていますが、新たな研究により、野菜、穀物、豆類などの高繊維食品を豊富に摂取することが、腸だけでなく心臓の健康、特に動脈硬化の予防に役立つことが明らかになりました。この画期的な研究は、食物繊維の摂取量が少ない人々では、プラークの蓄積により動脈が狭くなる可能性が高いことを示唆しており、心臓病予防における食事の役割を再認識させます。
ルンド大学(スウェーデン)心臓病学教授のIsabel Goncalves氏らの研究チームは、この重要な研究結果を「Cardiovascular Research」誌に6月16日付で発表しました。彼らは、個人の冠動脈CT血管造影法(冠動脈CTA)の画像と食事パターンを詳細に照合することで、食事の選択が冠動脈プラークの有無だけでなく、高リスクとされるプラークの特徴にも密接に関連していることを発見しました。
最新研究が示す食物繊維と心臓血管の健康
米国心臓協会(AHA)によると、コレステロールと脂肪は動脈にプラークを形成し、血流の減少や途絶を引き起こすアテローム性動脈硬化症(以下、動脈硬化)の原因となります。今回の研究では、スウェーデンで実施された大規模な心臓・呼吸器関連研究であるSwedish CArdioPulmonary BioImage Study(SCAPIS)に参加した、50歳から64歳までの2万4079人もの大規模なデータが用いられました。参加者は2013年から2018年の間に登録され、登録時点で心臓に健康上の問題を抱える人はいませんでした。
参加者の摂取食品に関する詳細な調査結果に基づき、研究チームは抗炎症作用があるとされる食事パターンに着目した「食事指数(DI)」を算出しました。この指数により、参加者はDIが最も高い群(健康的な食事パターン)から最も低い群(不健康な食事パターン)の3つのグループに分類されました。さらに、冠動脈CTAを用いて冠動脈プラークの評価が行われ、動脈硬化の有無、冠動脈カルシウムスコア、狭窄率など、冠動脈疾患に関連する6つの重要な指標が詳細に評価されました。この包括的な分析により、食物繊維の摂取量と心臓血管の健康状態との間の明確な関連性が浮き彫りになりました。
食物繊維が豊富な食品のイメージ
不健康な食生活が動脈プラーク形成を促進
今回の解析から得られた結果は、非常に示唆に富むものでした。動脈プラークが認められた割合は、最も健康的な食事パターンを示すDIが最も高い群で36.3%であったのに対し、最も不健康な食事パターンを示すDIが最も低い群では44.3%に上ることが明らかになりました。この差は、食事と動脈硬化リスクの間に明確な関連があることを示しています。
さらに、50%以上の狭窄が認められた割合も、DIが最も高い群では3.7%にとどまったのに対し、DIが最も低い群では6.0%と高くなっています。最も懸念される高リスクプラーク、すなわち石灰化を伴わず(非石灰化)かつ50%以上の狭窄を伴うプラークが認められた割合においても、DIが最も高い群では0.9%であったのに対し、最も低い群では1.5%と有意な差が見られました。
これらの結果を受けて、Goncalves氏は「われわれの研究結果は、食物繊維の少ない不健康な食事パターンが体と代謝に変化をもたらし、それがプラークの形成につながる可能性があることを強く示唆している」と述べています。これは、単に食べ物の量を減らすだけでなく、どのような種類の食品を摂取するかが、心臓の健康において極めて重要であることを浮き彫りにしています。
心臓の健康を左右する「全体的な食事パターン」の重要性
研究グループは、食物繊維が健康的な食生活において大きな役割を果たす一方で、心臓の健康を増進するためには、食事の他の要素も総合的に考慮する必要があると強調しています。論文の筆頭著者であるヨーテボリ大学(スウェーデン)のIngrid Larsson氏は、この点を明確に指摘しています。「健康を決定付けるのは、単一の食品ではなく、全体的な食事パターンです。」と彼女は述べています。
具体的には、野菜、果物、全粒穀物、食物繊維が豊富な食品、ナッツ類、低脂肪乳製品、そしてオリーブ油などを豊富に摂取する食生活が推奨されます。これに対し、赤肉、加工肉、ポテトチップスなどのスナック菓子、そして甘い飲み物などの摂取を控えることが、高リスクプラークの少なさと関連していることが明らかになりました。
まとめ
今回の研究は、食物繊維を豊富に含む健康的な食事パターンが、動脈硬化のリスク、特に高リスクなプラークの形成を抑制する上で極めて重要であることを示しました。健康的な食生活は、単一の食品に焦点を当てるのではなく、多様な栄養素を含むバランスの取れた「全体的な食事パターン」を築くことによって、心臓血管系の長期的な健康を支える基盤となります。日々の食卓で、より意識的に食物繊維や植物由来の食品を取り入れ、加工食品や糖分の多い飲み物を控えることが、私たちの心臓を守る第一歩となるでしょう。
参考文献:
- HealthDay News (2025年6月27日). High-Fiber Diet Reduces Risk of Hardened Arteries. https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/high-fiber-diet-reduces-risk-of-hardened-arteries
- Goncalves, I. et al. (2025). Dietary patterns and coronary artery plaque characteristics: Insights from the SCAPIS study. Cardiovascular Research. (Publication date: June 16).