日本で深刻化するクマ被害:季節外れの出没と「人慣れ」行動の背景に迫る

近年、日本全国でクマによる人身事故が後を絶ちません。特に北海道では、今月12日に福島町で新聞配達員がヒグマに襲われ死亡するという凄惨な事故が発生し、北海道庁は制度創設以来初となる「ヒグマ警報」を発令する事態に至りました。例年、クマの活動が活発化し被害が増えるのは冬眠準備に入る9月から11月頃ですが、今回の事故はまさに“季節外れ”です。なぜこの時期に深刻な被害が起きているのか、専門家の見解を交えながらその背景を探ります。

山の餌不足が引き起こす行動変化:従来のパターンと新たな兆候

かつてクマは、山での餌が不足する時期に一時的に人里に下りてくることが多かったとされています。岩手大学農学部准教授でクマの生態に詳しい山内貴義氏は、「8月に入ると、山の餌が本格的に不足し始めます。葉っぱは硬くなり、桑の実やサクランボも終わりかけ。クルミやドングリができる秋までは端境期となるため、アリやハチなどの昆虫の巣を襲って食べたり、行動範囲を広げて人里のトウモロコシや野菜、果物を食い荒らすのが例年のパターンでした」と説明します。

日本で深刻化するクマ被害:季節外れの出没と「人慣れ」行動の背景に迫る

しかし近年、この典型的な行動パターンから逸脱し、季節を問わず人里での餌探しが常態化するクマが出現していると山内氏は指摘します。これは、クマが人間に慣れ、人間の生活圏で容易に餌を得られることを学習してしまっている「人慣れ」の兆候であり、被害の深刻化に拍車をかけています。

「人間由来の餌」への執着:岩手の事例が示す深刻な実態

今月4日には、岩手県北上市で高齢女性が自宅の居間でクマに襲われ死亡する事故が発生しました。現場周辺では、倉庫に侵入したクマが保管されていた玄米を食べるなどの物的被害が相次いでいました。山内氏がこの女性を襲ったとみられるクマを解体したところ、その胃や腸の中身は米ばかりだったといいます。

「このクマは、本来であればまだ山に餌がある時期にもかかわらず、人里に下りてきて倉庫にあった米を繰り返し食べ、それに強く執着していたことが確認されました。クマの糞から米ぬかなどが検出される事例もあり、これは野外に放置されたり捨てられたりした籾殻を食べる個体が存在することを示唆しています」と山内氏は語ります。このように、人間が廃棄したり管理不十分な状態で放置した食物が、クマを人里に引き寄せ、結果として人身事故につながるという悪循環が浮き彫りになっています。

増加するクマ被害への警鐘と対策の必要性

「季節外れ」のクマ出没と人身事故の増加は、単なる餌不足にとどまらないクマの行動変化が背景にあることを示唆しています。特に「人慣れ」したクマが人里での食物を常習的に求めるようになる傾向は、今後も予測不能な形で被害を拡大させる恐れがあります。私たちはクマとの共存を目指す上で、彼らの生態の変化を深く理解し、餌を誘引しない環境整備や、適切な情報共有、そして効果的な対策の実施が喫緊の課題となっています。

参考資料