参政党、埼玉で躍進:外国人問題訴求とSNS浸透が示す新風

2024年の参院選投開票日、20日夜。埼玉県飯能市に位置する参政党新人、大津力氏の事務所は、街頭の熱気に比べて対照的な静けさに包まれていた。当選確実が報じられた午前2時前、わずか約10人の関係者で万歳三唱が行われたものの、それまでは報道陣以外に支持者の姿はほとんど見られなかった。陣営関係者は「ネットで投開票を見る支持者が多い」と語り、SNSを駆使して無党派層に深く浸透し、議席を獲得した新興政党の特性を鮮明に示した。

外国人問題が最大の勝因に

大津氏は、今回の勝利の「勝因は外国人問題を全面的に押し出したこと」と明言している。多くの外国人が居住する県南部での街頭演説では、「外国人がどんどん増えているじゃないですか。地域住民、本当に困ってるんですよ」と、具体的な問題提起を行った。参政党が掲げるキャッチコピー「日本人ファースト」は、まさにこの政策を象徴している。「外国人優遇」や「行き過ぎた移民受け入れ」の是正を訴える声は、有権者に強く響いたと陣営は見ている。実際、大津氏は地元飯能市に加え、人口の約8%を外国人が占める川口市で得票数トップを獲得。長年にわたり自民党が築き上げてきた強固な地盤を突き崩す形となった。

参院選で当選確実となり、支持者と共に万歳三唱する参政党の大津力氏。埼玉県飯能市の事務所にて、外国人問題への訴えが勝因の一つとされた参院選で当選確実となり、支持者と共に万歳三唱する参政党の大津力氏。埼玉県飯能市の事務所にて、外国人問題への訴えが勝因の一つとされた

有権者が抱く「漠然とした不安」

街頭演説に足を運んだ30代の女性は、「注目しているのは外国人問題。政治に無関心だったが、街に外国人が目立つようになって危機感がある。ネットでも事件などについて色々書かれていて……」と、その背景にある感情を語った。外国人による犯罪で県南部の治安が急激に悪化したことを示す具体的なデータは乏しく、この女性自身も外国人による被害に遭った経験はない。しかし、同市の外国人数は増加傾向にあり、自治体には文化の違いに基づく生活トラブルの相談が寄せられることも事実だ。外国籍住民による個別の事件が報道されることもあるため、有権者の間に国が進める外国人の受け入れ拡大に対する「漠然とした不安」が広がっていることが伺える。これは、国や既存政党が、そうした不安を払拭し、共生社会を目指すための取り組みや説明を十分に果たせてこなかった現状を示唆しているのかもしれない。今回の参院選では、「共生」ではなく、より強い言葉で「規制」を訴える公約や演説が相次いだ。ある川口市議は、「地元で外国人住民との生活トラブルがあるのは事実。地道に解決を目指すしかない問題だが、選挙で争点化されたことで地域の排外感情があおられるのではないか」と、懸念を示している。

「風」だけではない参政党の組織力

参政党は急浮上の新興勢力として語られがちだが、その躍進を支えたのは単なる「風」だけではない。埼玉県内には11人の地方議員が存在し、ポスターは都市部のみならず郊外にも広範に掲示されていた。各地で歴史や食品添加物などをテーマにした数百人規模の講演会を頻繁に開催するなど、地道な党勢拡大にも力を注いできた。ウェブサイト上では、月額制サービスさながらの形態で党員やサポーターを募集しており、東京都議会議員選挙があった2024年6月には党員数が急増したという。陣営関係者は「各地の党員の草の根的な活動が票につながった」と、その組織力に自信を見せた。選挙戦が進むにつれて、街頭演説に集まる聴衆は比較的若い年齢層が増加しているように見えた。大津氏は演説の中で、日本に干渉し国益を損なうとされる「日本の背後にある勢力」や「国際金融資本」への批判も訴えた。党代表の神谷宗幣氏編著の出版物でも同様の世界観が展開され、一部の専門家からは「陰謀論」との指摘が相次ぐものの、聴衆からは熱烈な拍手が送られた。参政党の勢いを目の当たりにした他陣営の候補が、「何が起こっているのか。いつまで続くのか。どこまで拡大するのか。全く分からない」とぼうぜんと語ったのが印象的だった。

今後の展望と課題

選挙期間中、参政党の神谷代表による街頭演説での発言は、差別につながりかねないとして度々問題視された。また、党が掲げる憲法草案には「国民主権」が明記されておらず、批判の声を集めている。党が提示するビジョンや言葉には危うさも感じられるが、大津氏は「自分の選挙に精いっぱいで神谷氏の発言はよく確認できていない」「憲法草案はあくまでもたたき台。これを機に議論が深まればいい」と述べるに留まった。参政党の熱狂が、埼玉、そして日本の政治に何をもたらすのか。神谷代表は投開票前日、群衆を前に力強く語った。「(今後の)自治体の首長選挙、埼玉県を皮切りに始めていこうと思います」。その言葉は、参政党が次に見据える目標と、日本社会に与えようとしている影響の大きさを物語っている。

参政党の今回の躍進は、既存政治への不満や、特定の社会問題、特に外国人問題に対する有権者の潜在的な不安を捉える戦略の有効性を示唆している。その主張には賛否両論あるものの、伝統的な政党の枠を超えたアプローチと、SNSを通じた浸透、そして草の根の活動が、新たな政治勢力として国民の注目を集める結果となった。今後、彼らが日本の政治情勢にどのような影響を与え、またその主張がどのように社会に受け止められていくのか、その動向は引き続き注視されるべきである。

参考文献

  • 毎日新聞 (Mainichi Shimbun)
  • Yahoo!ニュース (Yahoo! News)