北大西洋条約機構(NATO)が創設70年を記念した首脳会議で、中国の脅威に対応する必要があるとした「ロンドン宣言」を採択した。
東西冷戦終結から30年を経て国際秩序の新たな転換期を迎える中、旧ソ連とロシアの脅威に専ら対応してきたNATOが首脳レベルで初めて、中国に警戒感を示したことは評価できる。宇宙、サイバー空間での防衛強化も盛り込んだ。
世界の安定に資する妥当な新方針だが、会議では首脳間のあつれきが表面化した。NATOが十分に対応できるか不安が残る。
トランプ米大統領は、自身の記者団との長時間のやり取りをカナダのトルドー首相に揶揄(やゆ)されたことに反発し、会議後の記者会見を中止して帰国した。
トランプ氏は、中国の脅威に目を向けたことで「柔軟なNATOのファンになった」と評価したが、国防費を国内総生産(GDP)比2%超とするNATOの目標を満たさないドイツなどを「不公平だ」と非難した。これにマクロン仏大統領らが反発した。
そのマクロン氏は米国抜きの「欧州軍」創設を唱える。首脳会議前には加盟国トルコによるシリア北部のクルド人勢力攻撃などを理由に「NATOは脳死状態だ」と述べた。
トルコのエルドアン大統領はロシアに接近し、ロシア製の地対空ミサイルS400を導入し、他の加盟国の反発を買っている。
エルドアン氏は「マクロン氏こそ脳死だ」と批判した。トランプ氏は「フランス以上にNATOを必要としている国はない」とマクロン氏を牽制(けんせい)した。
NATOは、ロシアの脅威に備え、バルト三国などに米国や英独仏などの部隊を増派して防衛体制強化を進めているが、マクロン氏は記者会見で「ロシアを敵と見なしていない」と述べた。このような融和姿勢に東欧やバルト三国は不安を募らせている。
NATOはこれらの亀裂を急ぎ修復すべきである。現状のままでは、力による現状変更を目指す強権国家の中露両国を利するだけだ。中露は軍事的、経済的連携を深めている。
東西冷戦に勝利した歴史上最も成功した軍事同盟NATOは、ゆるんだタガを締め直し、自由と民主主義、法の支配を守るべく結束してもらいたい。