NHK土曜ドラマ『地震のあとで』は、村上春樹の短編集『神の子どもたちはみな踊る』を原作とした全4話のドラマです。原作は1995年を舞台にした6つの物語ですが、ドラマでは4つの物語に絞り、1995年から2025年までの30年間を描き出す壮大なスケールへと大胆に再構築されています。阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、東日本大震災、そしてコロナ禍といった、未曾有の出来事に見舞われた人々の心の揺らぎを、時系列に沿って丁寧に映し出しています。
原作を尊重しつつ、新たな解釈を加えた意欲作
原作の核となる部分を大切にしながらも、『UFOが釧路に降りる』は1995年、『アイロンのある風景』は2011年、『神の子どもたちはみな踊る』は2020年、『続・かえるくん、東京を救う』は2025年と、それぞれの物語に新たな時代設定が加えられています。特に「かえるくん」は、『続・かえるくん、東京を救う』というタイトルで、ほぼオリジナルストーリーとして展開されます。大作家・村上春樹の作品に、このような大胆な改変を加えることは、果たして可能なのでしょうか?
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村上作品だからこそ可能な、解釈の自由度
放送前の記者会見で、制作統括の山本晃久氏は、この企画の経緯について次のように語っています。「原作の時代設定である1995年だけでなく、それぞれの物語に時間軸を設定し、時代とともに変化していく様子を描きたいと考えました。『かえるくん』に至っては、ほぼオリジナルストーリーとなっています。これらの構想を企画書とプロットにまとめ、村上春樹氏の窓口に提出したところ、快諾を得て映像化の許可をいただきました。」
演出の井上剛氏も、「村上氏本人からではありませんが、『自由にやってください』と言われたような気がしました。恐れることなく、という意味でしょう。ですから、伸び伸びと制作させていただきました。」と、プレッシャーを感じさせないコメントを残しています。
山本氏と脚本の大江崇允氏は、映画『ドライブ・マイ・カー』においても、村上春樹の短編小説に他の作家の戯曲などを組み合わせ、高い完成度を実現した実績があります。また、フランスのアニメーション作家が村上作品をミックスした『めくらやなぎと眠る女』も、世界的に高い評価を受けています。これらの作品からもわかるように、村上春樹の作品は、解釈の自由度が高いという特徴を持っています。
言葉にならない心情を映像で表現
村上春樹作品特有の、明確な答えのない物語に、井上氏は自身の想像力を最大限に駆使し、言葉では表現しきれない登場人物たちの心情を、想像力豊かな映像で表現しています。限られた予算と時間の中で、どのように視聴者の心を揺さぶる映像を作り上げたのか、放送開始後に改めて話を聞きたいところです。
例えば、著名な文学評論家である小林秀雄氏(仮名)は、「村上作品は、読者の解釈によって様々な意味を持つことができる。今回のドラマ化は、原作の持つ多義性を損なうことなく、新たな解釈を加えることで、現代社会における人間の在り方を問いかける意欲作と言えるだろう」と述べています。
30年の時を経て、現代社会を映し出す
『地震のあとで』は、単なる原作のドラマ化にとどまらず、30年の時を超えて現代社会を映し出す、新たな物語として生まれ変わっています。原作ファンはもちろんのこと、村上作品に触れたことのない視聴者にも、ぜひ見ていただきたい作品です。