「日本広しといえど、ヤマタツをアゴで使えるのは私くらいです」――。2024年6月25日、Kアリーナ横浜での全国ツアー最終日。歌手の竹内まりやは、バックバンドを務める夫、山下達郎について上機嫌でこう切り出し、会場を沸かせました。長年にわたり日本の音楽シーンを牽引してきた二人の間には、ステージ上でのユーモラスなやりとりだけでなく、音楽活動や私生活における独自の「夫婦関係」が築かれています。本記事では、このベテラン夫婦の知られざる舞台裏に迫ります。
音楽活動を支える「達郎ファースト」の哲学
今年3月に古稀(70歳)を迎えた竹内まりやですが、その音楽活動への情熱は衰えを知りません。昨年秋には新アルバムをリリースし、年末の紅白歌合戦への出場も期待されました。しかし、音楽ライターによると「NHKからオファーはありましたが、2019年に一度出場していたこともあり、すぐに断った」とのこと。彼女の念頭にあったのは、2021年にコロナ禍でキャンセルとなったコンサートツアーへの強い思いでした。
竹内の音楽プロデューサーであり、コンサートでは必ずバンドマスター兼ギタリストとして参加するのが、夫の山下達郎(72)です。「まりやさんは音楽家として達郎さんを敬愛していて、1982年の結婚以来、達郎さんの手が空いたときに、自分の音楽活動をするという“達郎ファースト”のスタンスを貫いてきました」と前出の音楽ライターは語ります。この夫婦の絆と相互の尊敬が、彼らの音楽を支える基盤となっています。
山下達郎を敬愛する妻・竹内まりやのコンサート風景
打ち上げの舞台裏と山下達郎の意外な変化
11年ぶりとなった今回のコンサートツアーは全国8都市14公演で開催され、千穐楽のKアリーナ横浜では、竹内が全22曲を2時間半にわたり歌い続けました。コンサート後には、隣接するヒルトン横浜でプロモーターらを招いた打ち上げが行われたそうですが、興行関係者によると「1時間ちょっとで終わったそうです。さすがに疲れもあったでしょうし、まりやさんはお酒をあまり飲まない。達郎さんに至っては2、3年前にすっかりお酒をやめました」と明かされました。
かつては大好物のうなぎにワインを合わせるのが無上の喜びだったという山下達郎。「根っからのオタク気質な達郎さんはワイン専用の倉庫を借りるほど、収集にのめりこんでいました。娘さんがラベルをデザインしたオリジナルボトルを作って、仲の良い友人たちに配ったことも」と関係者は語ります。しかし、いまではその情熱は形を変えたようです。「お酒をやめたいま、ワインは投資目的になっているんじゃないでしょうか。『酒をやめてから声が出るようになった』と話していました』とも付け加え、健康と歌唱力維持への意識の高さを窺わせます。
夫婦のユーモアが光るステージ上のやりとり
竹内まりやのコンサートでは、山下達郎が自身の楽曲「プラスティック・ラヴ」でボーカルをとる一幕もありました。72歳とは思えない伸びのある高音で観客を大いに沸かせたその歌声に、思わず竹内は「全部持っていっちゃう」とユーモラスにこぼしました。
一方で、竹内は「竹内まりやのコンサートに来ると、もれなく山下達郎が付いてくる。一粒で二度おいしい」と観客に語りかけ、冒頭のシーンのように山下を従える喜びをたっぷりのユーモアで表現。その直後には「家では私がバンマスなんだけどね」とサラリと付け加え、家庭内では自身が主導権を握っていることを明かし、観客の笑いを誘いました。
竹内まりやと山下達郎、二人の間には、長年にわたる深い信頼と愛情、そして音楽への揺るぎない情熱が息づいています。ステージ上の軽妙なやりとりは、彼らの公私にわたる絶妙なバランスと、互いを尊重し合う関係性を映し出しています。