人生の大きな節目である新婚旅行。その甘いひとときを過ごしている最中、予期せぬ会社からの「至急電話」が鳴り響いたら、あなたはどう感じるでしょうか?約四半世紀前、新婚旅行先のオーストラリアで、ある男性が実際に体験した信じられないような出来事が、当時の職場環境やコミュニケーションのあり方を浮き彫りにします。
シドニーでの新婚旅行、突然の伝言
今からおよそ25年前、私は新婚旅行でオーストラリアのシドニーに滞在していました。美しい街並みを楽しみ、一生に一度の思い出を作っている最中のこと。宿泊していたホテルのフロントから、緊急の伝言が届きました。それは「至急、会社に電話するように」という、直属の課長からの指示でした。新婚旅行の宿泊先にまで連絡してくる事態に、ただならぬ胸騒ぎを覚えました。
新婚旅行中に上司から仕事の電話がかかってきた状況を想起させるイメージ写真
最悪の事態を想定した不安と焦り
新婚旅行という特別な期間に、なぜ会社がこれほど緊急の連絡をしてきたのか。私の頭の中には、最悪のシナリオばかりが駆け巡りました。ひょっとして、本社からの監査で重大な落ち度が見つかったのではないか。あるいは、私が担当していた顧客が突然破綻してしまったのか。不安と焦りが募るばかりで、心から休まる暇もありませんでした。「ねえ、早く電話した方がいいんじゃない?」と、心配する妻の言葉にも、私の焦りはさらに募るばかりでした。
国際電話の先にあった「まさか」の用件
当時はまだ携帯電話が普及しておらず、海外からの国際電話はホテルのフロントからコレクトコールをかけるのが一般的でした。フロントでかけ方を教わり、日本の吹田支店に電話をかけました。時差を考えると、日本は午後6時を過ぎた頃で、多くの担当者がまだ支店に残っているはずでした。電話に出たのは、私より1年上の川口先輩でした。
「お前、海外行ってるんやろ?えっ、課長から電話が?なんでや?ていうか、お前の方が聞きたいよな。ちょっと待っとけ」
そう言って、電話を課長に代わってくれました。そして、課長が口にした「至急」の用件は、私の想像をはるかに超えるものでした。
「年金!年金ファイル、どこ?どこにしまったん?」
この言葉を聞いた瞬間、私の頭は混乱しました。「年金ファイル」とは、おそらく年金指定替えのセールス資料のことだろう。青いファイルで、課長の後ろにある観音開きの棚の上段に保管してあるはずだ、と伝えました。まさか、ファイルの保管場所が分からないという、たったそれだけの理由で、わざわざ新婚旅行中の私にシドニーまで国際電話をかけてきたというのでしょうか?
言葉を失う結末と上司の反応
私が呆然としていると、課長は「おう、これこれ。サンキューな。助かったわ。会議の資料まとめられるわ」とあっけらかんと答えました。私は思わず、「そ、それだけですか?ん?本当にそれだけで電話してきたんですか?」と問い返しました。しかし、課長は一切悪びれる様子もなく、「せや。お前かて引き継ぎ書にホテルの電話番号書いとるやろ。眠たいこと言うな」と言い放ったのです。
この言葉には、ただただ呆れるしかありませんでした。何の悪気もなく、むしろ私が文句を言っている方が間違っているかのような課長の態度に、私は言葉を失いました。一生に一度の新婚旅行中にまで、このような「緊急」の仕事の連絡が入り、その内容がたった一つのファイルの場所を尋ねるだけだったという事実は、当時の職場におけるコミュニケーションやマネジメントのあり方、そしてワークライフバランスに対する認識の甘さを物語っているかのようでした。
この忘れられない出来事は、仕事とプライベートの境界線、そして適切な引き継ぎの重要性を改めて考えさせられるエピソードとして、今も私の記憶に深く刻まれています。