参院選大敗で石破首相に退陣論、永田町を揺るがす「ポスト石破」の行方

日米関税交渉の電撃的決着が永田町に新たな波紋を広げる中、「ポスト石破」を巡る議論が政治の中心を占めています。去る7月20日投開票の参院選において、自民党は改選52議席から大幅に減らし39議席と大惨敗を喫しました。連立を組む公明党も改選14議席から8議席に落ち込み、両党で過半数割れという厳しい結果となりました。石破茂首相(68)が就任して以来、2024年10月の衆院選、2025年6月の都議選に続く三連敗となり、政権基盤の脆弱さが露呈しています。首相は7月21日の会見で「比較第一党となる議席を頂戴した。最も大切なことは国政に停滞を招かないことで、国家・国民に対する責任を果たしていかねばならない」と続投を強調しましたが、党内からの支持は極めて限定的であり、日米関税交渉の決着を花道とした辞任を求める声が活発化しています。

参院選惨敗と石破首相の「続投」強調

今回の参議院選挙の結果は、自民・公明両党にとって深刻な打撃となりました。特に自民党の議席減は予想を上回るものであり、石破政権に対する国民の不満が如実に表れた形です。首相の座に就いてから衆院選、都議選、そして今回の参院選と主要な国政選挙で立て続けに敗北を喫したことで、「三連敗首相」という不名誉なレッテルが貼られる事態となっています。こうした状況下で、石破首相は続投の意向を示し、国政の停滞を避けることを最優先課題と位置づけました。しかし、与党内からは首相の責任を問う声が日増しに強まっており、退陣を求める動きが加速しています。

7月23日、石破首相は麻生太郎最高顧問(84)、菅義偉副総裁(76)、岸田文雄前首相(67)という「歴代首相3人」と会談しました。会談後、首相は記者団に対し、「3人の元総裁と強い危機感を共有したほか、党の分裂は決してあってはならないなど、いろいろな話があった」と説明しました。しかし、自身の出処進退については、「一切、話は出ていない。そのような発言をしたことは一度もない。報道されているような事実はまったくない」と明言し、退陣論を強く牽制する姿勢を見せました。

退陣報道先行への不満と終戦記念日への強い思い

石破首相が退陣論に対し感情的になっている背景には、報道が先行していることへの不満があると言われています。自民党関係者によると、「進退の話が出ていないワケがない。石破首相も日米関税交渉がまとまり、総理のイスにしがみついているわけではない。あとはタイミングの問題だ」としつつ、「首相退陣論は読売と毎日が先んじて報じた。読売に至っては号外まで配った。石破首相は報道先行の退陣論が気に食わない部分もある」と明かしています。

参院選大敗後に退陣論が浮上する石破茂首相と、次期「ポスト石破」候補として注目される林芳正官房長官参院選大敗後に退陣論が浮上する石破茂首相と、次期「ポスト石破」候補として注目される林芳正官房長官

さらに、首相に近い永田町関係者によれば、石破首相には8月15日の終戦記念日に、何としても現役総理として式典などに臨みたいという強い思いがあるようです。2025年は1945年の太平洋戦争終戦から80年の節目にあたり、元来「防衛オタク」としても知られる石破首相にとっては特別な日となります。この関係者は「首相は自分の名前で戦後80年のメッセージを出したいのだろう」と、首相の心情を推し量っています。

激化する「ポスト石破」レースの主要候補

石破首相の思いとは裏腹に、永田町では早くも「ポスト石破」レースが本格的にスタートしています。早くから有力候補として名前が挙がっているのは、昨年9月の総裁選にも立候補した小泉進次郎農相(44)、高市早苗氏(64)、小林鷹之氏(50)の3名です。特に小泉氏は前回の総裁選で先行しながらも、決選投票に残れなかったという経緯があります。全国紙の政治担当記者によると、「今回はいわゆる“コメ問題”をめぐる立ち回りで存在感を示した。進次郎氏に近い議員によると『(総裁選に向け)ギアが入っている』という」と、次期総裁選への意欲を見せているようです。

一方、高市氏と「コバホーク」こと小林氏については、次のような見方が示されています。「参院選で“高市応援団”の杉田水脈氏が落選。西田昌司議員も薄氷の勝利だった。前回総裁選ほどのインパクトは期待できないのではないか。コバホークは有望なのはたしかだが、『まだ早い』という意見の方が多い」と、現状では苦戦が予想されています。

これら三者以外では、一部で岸田文雄前首相の再登板情報も流れています。岸田氏は参院選後の政局を見据え、これまで距離のあった重鎮議員と水面下で接触を図っていたとされ、前出の自民党関係者いわく「本人のウォーミングアップは終わっている」とのことです。しかし、本人のやる気とは裏腹に国民人気は依然として低く、次期衆院選で「顔」として党を率いるには正直心もとないという厳しい評価が下されています。

ダークホース林芳正官房長官の台頭

そうした中で、ダークホースとして急浮上しているのが林芳正官房長官(64)です。林氏は東京大学法学部を卒業後、三井物産に入社し、その後、米ハーバード大学ケネディ・スクールを修了したという輝かしいエリート経歴の持ち主です。岸田政権時代には外務大臣を務め、石破政権でも官房長官という要職に就いています。小泉氏や高市氏に比べると地味な印象は否めませんが、「まとまりやすさ」という点で有利に働く可能性があります。

政治評論家の有馬晴海氏は林氏について、「衆参ともに自公が過半数を割った今、政策ごとに野党と組まないと法案が通らない。そうなると、野党に“協力してもらえる人”と考えると、林さんの名前が上がってきているということでしょう」と評価しています。さらに、「派手さはないが堅実ですし、何より政策通。有能なので若いころから政策の土台作りなど、目立たないところでしっかり仕事をしてきた。温厚な性格で敵は少ないですし、安定感は抜群でしょう」と、その実力と安定感を高く評価しています。

終わりに

一寸先は闇と言われる永田町。参院選の大敗を受けて、石破首相の進退問題は避けられない課題となり、同時に「ポスト石破」を巡る水面下の動きが加速しています。小泉進次郎氏、高市早苗氏、小林鷹之氏、そして岸田文雄氏といった有力者たちが鎬を削る中、林芳正官房長官のような「堅実派」が脚光を浴びる構図は、ねじれ国会という新たな政治状況がもたらす影響を色濃く反映していると言えるでしょう。各陣営の暗闘はここからさらに激しさを増し、今後の政局の行方が注目されます。

参考文献