半年ほど前、米国が日本からの輸入品に15%もの高関税を課すと予想した者はほとんどいなかったでしょう。日本は米国にとって、長年にわたる最も緊密な同盟国の一つであるからです。ドナルド・トランプ大統領が輸入品全体への一律10%関税や、中国製品へのさらなる高関税案を提唱していたものの、その実行の度合いは不明瞭でした。しかし、7月23日、トランプ大統領が日本製品に対する15%の関税を含む合意を発表すると、市場には明確な安堵感が広がりました。この数十年間で最も高い税率であるにもかかわらずです。アジアや欧州の株式市場は上昇し、日経平均株価は3.5%以上も急騰。米国への輸出車に15%の関税が課される日本の自動車メーカー各社の株価も、軒並み10%以上も跳ね上がりました。この一見奇妙な市場の反応は、トランプ政権の貿易戦略が世界に与えた影響を如実に示しています。
「高関税」が「標準」に:トランプ氏が変えた世界の期待値
今回の市場の反応は、関税に対する世界の期待値をトランプ大統領がいかに急速かつ完全に変えてしまったかを証明しています。数ヶ月前まで衝撃的だった関税率を、これほど短い期間で「標準」として定着させてしまったのです。さらに高い関税を課すと脅し、破壊的な貿易戦争の可能性をちらつかせることで、世紀の高税率ともいえる関税ですら、なぜか「安堵感」さえ覚えるようにさせてしまいました。
この反応はもっぱら、トランプ大統領が世界各国との貿易交渉を通じて作り出した、途方もない不確かさによるものです。トランプ大統領は数十カ国に対し、米国と合意しない限り、8月1日からさらに高い関税を課すと繰り返し脅してきました。トランプ政権はこれまでに、英国、ベトナム、インドネシア、フィリピンといった国々とも貿易合意を発表していますが、いずれのケースでも10%から20%の関税が課されています。
難航する交渉からの「予期せぬ合意」とその背景
米国が7月23日に日本と合意したこと自体も、良い意味での驚きでした。両国間の交渉はこれまで難航を極めていたからです。その一因には、国政選挙を控えた日本の政治家たちが、米国に屈して国益を損なうことのないようにという国内からの強い圧力を受けていたことが挙げられます。
両国政府は、トランプ大統領が全ての輸入車に課すと示唆していた25%の関税や、米国産の米に対する日本の貿易障壁を巡っても激しく対立していました。両国がこうした障壁を乗り越えて合意に至れるのかどうかは、決して明確ではありませんでした。
取り引き成立のカギとなったのは、トランプ大統領が日本車に対する自動車関税を15%に下げるという条件に合意したことだったようです。15%という税率は、他国からの自動車に課される可能性のある関税率よりはかなり低いものの、トランプ政権発足前の実質税率2.5%からは大幅な増加となります。
国際金融サービス企業「イーバリー」の市場アナリスト、マイケル・ジョズウィアク氏は今回の合意について、「日本にとっては命綱になりうるものです。トランプ政権からかなりの譲歩を引き出しつつ、日本の基幹産業である自動車部門をより厳しい関税から守ることに成功したのですから」と語っています。
米国へ輸出される日産自動車の新車。日米貿易合意における自動車関税の影響を示す。
日本経済への影響と今後の展望
トランプ大統領が他の自動車輸出国に対しても同様の関税を提示するかどうかは依然として不明です。しかし、米国と交渉中の韓国、欧州連合(EU)、メキシコといった国々が、関税の引き下げを合意の一部として要求する可能性は高いと見られています。日本との合意は、「ホワイトハウスには妥協の余地があるという認識」を強めるものだとジョズウィアク氏は指摘しています。
今回の高関税率での日米貿易合意にもかかわらず市場が「安堵」した現象は、トランプ政権が作り出した貿易環境における新たな「正常」を映し出しています。不確実性の高まる国際貿易において、たとえ高い関税であっても、明確な合意がもたらす安定性が市場に評価された結果と言えるでしょう。この合意は、日本の自動車産業に一時的な安堵をもたらすと同時に、今後の国際貿易交渉における米国の姿勢と、他国への影響を占う上で重要な前例となる可能性があります。
Ana Swanson