映画『国宝』大ヒットの背景:歌舞伎専門家が語る魅力と伝統芸能の基礎知識

上映時間3時間弱、歌舞伎という専門的な題材を扱いつつも、映画『国宝』が興行収入60億円を超えるメガヒットを記録しています。吉沢亮と横浜流星の両主演による熱演は多くの観客を魅了し、これを機に日本の伝統芸能である歌舞伎への関心が高まっている人も少なくないでしょう。そこで今回、伝統芸能に造詣の深いライター、九龍ジョー氏に『国宝』の評価と歌舞伎の基礎知識について詳しく伺いました。

歌舞伎役者を演じる吉沢亮と横浜流星の熱演でメガヒットを記録中の映画『国宝』のキービジュアル歌舞伎役者を演じる吉沢亮と横浜流星の熱演でメガヒットを記録中の映画『国宝』のキービジュアル

歌舞伎ファンが語る映画『国宝』の真価

専門家から見た『国宝』の評価とヒット要因

九龍ジョー氏は『国宝』を「素晴らしかった」と高く評価しています。物語の核をなす歌舞伎の舞台シーンでは、吉沢亮と横浜流星が実際に歌舞伎役者として演じている点が、歌舞伎ファンにとっても「説得力があった」と強調しました。

また、「映画」としての見応えも特筆すべき点です。正直なところ、ドラマとしての構成は図式的な印象があったものの、歌舞伎の場面を筆頭に、スクリーンに映るもの全てが非常に面白く、観客は魅入られるうちに3時間が瞬く間に過ぎていく感覚に陥るでしょう。ヒット要因については、監督やキャストの発表段階から期待は高かったものの、ここまで大ヒットするとは予想外だったとのこと。歌舞伎という題材のニッチさや昭和の世界観が、むしろ現代において新鮮に受け止められたことが成功の鍵だと分析しています。

歌舞伎愛好家が注目する独自の魅力

歌舞伎ファンならではの視点から見ると、『国宝』には「うれしいカメラアングルが多い」点が挙げられます。舞台袖から見た上演中の舞台や、舞台上から客席を見下ろすカットは非常に珍しい映像体験を提供します。『娘道成寺』という演目に出てくる大きな鐘の裏側、楽屋での化粧前での役者同士の雰囲気、そして舞台への導線、特に「セリ」で役者が上がっていく場面などは、歌舞伎愛好家にとって目を凝らして見たくなるような貴重なシーンばかりです。

年間を通じて公演が行われ、日本の伝統芸能の中心地である歌舞伎座の外観年間を通じて公演が行われ、日本の伝統芸能の中心地である歌舞伎座の外観

劇中に登場する歌舞伎演目の解説

『国宝』には『鷺娘』『曽根崎心中』など複数の歌舞伎演目が登場します。喜久雄(吉沢亮)や俊介(横浜流星)が女形(おんながた)であることから、『藤娘』『娘道成寺』『鷺娘』といった女形の踊りが選ばれています。さらに、ふたりが所属する「丹波屋」が関西の家という設定のため、上方歌舞伎を代表する近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)作の『曽根崎心中』が物語の中で重要な演目として扱われています。

一般的に歌舞伎と聞くと派手な「見得(みえ)」などをイメージする人も多いですが、劇中ではしなやかさや、心中に向かう男女の情感などを通じて、歌舞伎の「美」を伝える演目が多く選ばれているのが印象的だと九龍氏は語っています。これらの演目が、映画を通じて歌舞伎の奥深さと芸術性を効果的に伝えています。

結論

映画『国宝』の成功は、単なるエンターテインメント作品に留まらず、日本の誇る伝統芸能である歌舞伎の魅力を現代に再認識させるきっかけとなりました。歌舞伎専門家の視点から見てもその完成度の高さが評価され、特に歌舞伎ファンにとっては貴重な舞台裏の描写や、演目に対する深い洞察が提供されています。この映画をきっかけに、多くの人々が歌舞伎の世界へと足を踏み入れ、その普遍的な美意識と深遠な物語に触れることを願います。

参考資料

  • Yahoo!ニュース