夕刊紙・日刊ゲンダイで数々のインタビューを手がけるコラムニスト峯田淳氏の連載「人生を変えた『あの人』のひと言」。第44回は、歌手から音楽プロデューサーへと転身し、長きにわたり日本の音楽シーンを支えてきた飯田久彦氏に焦点を当てる。彼が、昭和を代表する大物作詞家との知られざる出会いや、後のミリオンヒット曲「孫」の誕生秘話を語る。音楽業界の舞台裏でいかにして名曲が生まれたのか、その目利きの妙に迫る。
「孫」誕生秘話：直感と確信が導いた奇跡のヒット
レコード業界の重鎮として知られ、「チャコ」の愛称で親しまれる音楽プロデューサー兼ディレクターの飯田久彦氏（84）へのインタビューは、8年前に遡る。飯田氏は、歌手として「ルイジアナ・ママ」を大ヒットさせた後、ビクター、テイチク、エイベックスといった大手レコード会社を渡り歩き、松崎しげる、岩崎宏美、ピンク・レディーなど、数々のトップアーティストを育て上げた功績で名高い。彼の連載「チャコが語る 今とあの時代」の中で、特に印象深いエピソードとして語られたのが、1999年に当時57歳の大泉逸郎氏（83）が歌い、大ヒットを記録した「孫」（作詞：荒木良治、作曲：大泉）の誕生秘話である。
音楽プロデューサー飯田久彦氏
飯田氏がビクターからテイチクに移籍したばかりの頃、彼が最初に手がけたのは、テイチクが保有する楽曲を片っ端から聴くことだった。その中には、他社で自主制作された「孫」のデモテープが含まれていた。この曲は、大泉氏が自身の初孫があまりにも可愛くて仕方がないという純粋な気持ちから生まれた、まさにプライベートな一曲だった。
孫への深い愛情から祖父が作った個人的な曲が商業的に成功するなど、当時の誰もが想像しなかったことだろう。しかし、飯田氏は「とても気になった」と語る。その直感を信じ、懇意にしている芸能プロダクションの社長に聴かせたところ、意外な一言が返ってきた。「飯田さん、これ、100万枚売れるよ」。この社長は、連載では名前が伏せられたものの、80年代以降のヒットチャートを席巻した数々の名曲を手がけてきた、音楽業界の超大物である。
そして、テイチクからメジャーデビュー盤として発売された「孫」は、最終的に200万枚を超える売上を記録する大ヒット曲となった。これは、優れた目利きを持つ飯田氏の直感が、業界の重鎮によってさらに後押しされたことによる、まさに大成功の物語と言えるだろう。
飯田久彦氏の洞察力：時代を超えた名曲を発掘する力
飯田久彦氏が「孫」をミリオンヒットに導いたエピソードは、彼の音楽プロデューサーとしての卓越した洞察力と経験を浮き彫りにする。一見すると商業的な成功が見込めないと思われた楽曲の潜在的な魅力をいち早く見抜き、その価値を最大限に引き出す手腕は、まさに伝説的である。彼の決断と、それに共鳴した業界の大物のサポートが、多くの人々の心に響く名曲を世に送り出す結果となった。
