2025年「拘禁刑」導入で日本の刑罰はこう変わる:法学が語る法益と犯罪類型

2025年6月1日より、これまでの「懲役」と「禁錮」が廃止され、新たな刑罰として「拘禁刑」へと一本化されます。これは、受刑者への「懲らしめ」を重視する従来の処遇から、彼らの「立ち直り」を重視した指導への転換を図る、日本の刑事司法における重要な法改正です。法は自然科学の不変の法則とは異なり、時代に応じて「解釈」を変え、あるいは新たに「立法」することで常に変化し続けています。

「拘禁刑」導入:刑罰制度の現代化

新設される拘禁刑は、従来の懲役(労働を課す)と禁錮(労働を課さない)を統合したものです。この一本化により、受刑者の個々の特性や状況に応じた柔軟な指導・教育が可能となり、社会復帰をより一層促進することが期待されています。この変更は、矯正制度における国際的な潮流とも合致し、刑罰の目的が単なる応報から、再犯防止と社会の安全に資する「改善更生」へとシフトしていることを明確に示しています。

刑法の基礎と「法益」の概念

犯罪に関する基本法である日本の刑法は、明治40年(1907年)に公布され、翌年に施行されました。刑法上では様々な犯罪類型が規定されていますが、その根底にあるのは「法益」の保護です。法的に保護しなければならない生命、身体、財産、名誉といった何らかの利益(法益)がある場合、この法益を侵害する行為を「犯罪」として禁止し、その行為に対する刑罰を定めています。法益を侵害する行為を罰することで、社会の秩序と個人の権利が守られています。

日本の刑罰制度改革を示す法廷のイメージ日本の刑罰制度改革を示す法廷のイメージ

日本の刑法における主要な犯罪類型

刑法に規定される犯罪は、侵害される法益の種類によって大きく三つに分類されます。

  1. 個人の利益を侵害する犯罪:
    生命、身体、財産、自由、名誉など、個人の法益が対象です。具体例としては、殺人、傷害、過失致死傷、逮捕・監禁、不同意わいせつ、住居侵入、業務妨害、名誉毀損、強盗、窃盗、横領などが挙げられます。これらの犯罪は、最も身近で、個人の生活の安全に直結します。

  2. 社会・公共の利益を侵害する犯罪:
    社会全体の秩序や公共の安全、風俗などを法益とする犯罪です。たとえば、騒乱罪、放火罪、往来妨害罪、通貨偽造罪、文書偽造罪、印章偽造罪、公然わいせつ罪、わいせつ物頒布罪、賭博罪などがあります。これらは、個人が安心して社会生活を送るための基盤を揺るがす行為として規制されます。

  3. 国家自体の利益を侵害する犯罪:
    国家の存在や機能、公正な公務の執行などを法益とする犯罪です。内乱罪、公務執行妨害罪、逃走罪、犯人蔵匿罪、証拠隠滅罪、汚職に関する罪(贈収賄など)などがこれに該当します。国家の根幹を揺るがす行為は、特に厳しく処罰されます。

刑法以外の法律に規定される犯罪行為

犯罪の類型は刑法に定められているものに限りません。刑罰を伴う禁止行為が規定されている法律は数多く存在します。例えば、インサイダー取引(金融商品取引法)、特定の株主に対する利益供与(会社法)、高金利での貸付け(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)などは、それぞれの特別法によって厳しく規制されています。これらの法律もまた、社会の健全な経済活動や公正な取引を保護するために不可欠です。

このように、刑法を中心とした様々な法律によって「法益」が守られているからこそ、私たちは日々安心して暮らすことができています。今回の拘禁刑導入は、時代の変化に合わせた刑罰制度の進化であり、受刑者の更生と社会の安全を両立させるための重要な一歩と言えるでしょう。

参考文献

  • 『はじめまして、法学 第3版』(中央大学法学部教授/遠藤研一郎・著)