『ジュラシック・ワールド/復活の大地』徹底分析:シリーズ再起動の真価とギャレス・エドワーズ監督の手腕

恐竜映画の金字塔『ジュラシック・パーク』シリーズと、その世界観を広げた『ジュラシック・ワールド』シリーズ。この度新たに公開された『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は、「ワールド・シリーズ」の次なる展開を仕切り直す超大作として注目を集めています。脚本には『ジュラシック・パーク』および『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を手掛けたデヴィッド・コープが復帰し、監督には『GODZILLA ゴジラ』、『ザ・クリエイター/創造者』で知られるギャレス・エドワーズが初抜擢。スカーレット・ヨハンソンを新たな主演に迎え、新生『ジュラシック・ワールド』の世界が描かれます。果たして、その内容はどのような真価を秘めているのでしょうか。

恐竜たちの新たな現実:メタ的な視点とシリーズの自覚

本作『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は、前作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(2022年)の5年後という設定です。世界中に解き放たれたはずの恐竜たちですが、現在の地球環境は彼らの生存には適しておらず、広く繁殖するには至らなかったようです。結果として、恐竜たちは赤道直下の一部地域でのみ生息する状況になっています。これはリアリティがある一方で、どこか寂しさを感じさせる設定です。

冒頭のニューヨークのシーンでは、竜脚類のアパトサウルスが施設から脱走し、交通渋滞を引き起こして人々の不興を買っています。かつて恐竜に抱かれていた羨望の感情は消え失せ、人々はもはや恐竜に関心を示しません。このアパトサウルスは「ブロント・ビリー」という個体名を持っており、これは西部劇初期のスター「ブロンコ・ビリー」を捩ったものです。かつてクリント・イーストウッド監督・主演作『ブロンコ・ビリー』(1980年)が、往年のスター名を冠し時代遅れとなった旅回り芸人の悲哀を描いたように、北米に生息していたアパトサウルスに象徴される恐竜という存在は、隆盛を極めながらもジャンルとして廃れていった西部劇に重ねられています。これは、マンネリ化しつつあった「ジュラシック・シリーズ」そのものの象徴として、メタ的に表現されていると解釈できます。

ニューヨークの街中を歩く巨大なアパトサウルスが人々を驚かせ、交通渋滞を引き起こしているニューヨークの街中を歩く巨大なアパトサウルスが人々を驚かせ、交通渋滞を引き起こしている

つまり本作は、「ジュラシック映画」全体の勢いや支持が低下している現状を前提とし、そこからいかにして新たな盛り上がりを生み出すか、というテーマに真正面から向き合うことを宣言しているのです。そして、その答えとして提示されるのが、分かりやすいミッション型のストーリー構造なのです。

ミッション型ストーリー構造への転換とその効果

元特殊部隊員のゾーラ・ベネット(スカーレット・ヨハンソン)、グラント博士の教え子であるヘンリー・ルーミス博士(ジョナサン・ベイリー)、ゾーラの友人の傭兵ダンカン(マハーシャラ・アリ)、そして計画を主導するビジネスマンのマーティン(ルパート・フレンド)。彼らが目指すのは、恐竜が多数生息するサン・ユベール島とその近辺の海域です。彼らのミッションは、そこでモササウルス(海洋の最大級の肉食恐竜)、ティタノサウルス(長い尾を持つ竜脚類最大級の恐竜)、ケツァルコアトルス(史上最大級の翼竜)といった陸海空3種の巨大恐竜からDNAサンプルを採取すること。これらのサンプルは画期的な医薬品の開発に利用され、クライアントに大きな利益をもたらす計画です。

ここでは、単にトラブルで恐竜の脅威に晒されるだけでなく、恐竜に能動的に接近しなければならないという必然性が提示されています。このような明確な枠組みを設定したことで、本作はストーリーの中で自然にスペクタクルシーンを表現できるようになり、同時に「プログラムピクチャー」としての特徴をより強く備えることにもなりました。

ギャレス・エドワーズ監督の進化と「潤沢な予算」の活用

もう一つ、メタ的な表現として興味深いのは、マーティンがゾーラをプロジェクトに誘う際に、「今回は予算が潤沢なんだ」と強調する点です。ギャレス・エドワーズ監督は、前作『ザ・クリエイター/創造者』において、巧みな予算管理と節約的な表現手法によって「コスパSF大作」と評されるほどのスケール感を実現し、高い評価を得ました。しかし、今回は「ワールド・シリーズ」の中では抑制的とはいえ、エドワーズ監督作品としては格段に製作費がアップしています。このような大規模な予算の下でエドワーズ監督がメガホンを取るからこそ、効果の最大化が見込めるというわけです。

観客の期待に応えるように描かれるのが、海上でのモササウルスとの攻防や、岩礁のある水域でのスピノサウルスたちとの興奮を呼ぶチェイスシーンです。ギャレス・エドワーズ監督は、『モンスターズ/地球外生命体』(2010年)や『GODZILLA ゴジラ』(2014年)において、怪獣がもたらす恐怖を演出によって最大限に引き出そうと試みてきました。そこには予算や技術的な制約をカバーする意味合いもありました。本作では、その試みをより派手なVFXの枠組みの中で、恐怖感の醸成に特化した形で利用している点が大きな進歩であり、同時にリッチな印象を与えることに成功しています。

水中で獲物を狙う巨大なモササウルス。その鋭い歯が見える水中で獲物を狙う巨大なモササウルス。その鋭い歯が見える

『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は、単なる恐竜映画の続編に留まらず、シリーズが抱える課題を自覚し、それを乗り越えるための新たな方向性を明確に示した作品です。明確なミッション型ストーリーと、ギャレス・エドワーズ監督の持ち味である恐怖演出が「潤沢な予算」によって最大限に引き出された結果、観客は新鮮かつ洗練された恐竜体験を味わうことができます。本作は、まさにシリーズの真価を「復活」させることに成功したと言えるでしょう。