昨年11月の兵庫県知事選挙で再選を果たし、2期目に入って8カ月が経過した斎藤元彦知事(47)。これまで内部告発文書問題や自身の選挙違反疑惑などが大きく取り沙汰されてきたが、現在の兵庫県政は依然として「異常事態」が続いていると指摘されている。特に、定例会見における記者と知事の間のやり取り、そしてそれに続くSNSでの「炎上」が、県政の透明性や風通しの良い職場環境の実現に影を落としていると懸念の声が上がっている。
斎藤元彦兵庫県知事の定例会見の様子。知事の対応が注目される。
定例会見で明らかになった「言論の委縮」
去る7月29日に実施された定例会見では、出席した一人の記者が質疑応答の中で「異例の私見」を述べる一幕があった。会見開始から約17分後、その記者は自身の所属媒体とフルネームを名乗り、次のように強い問題意識を提示した。
「先週もここで質問をして、その後、会社にクレームの電話が鳴り止まずに私は県政の担当を外れることになりました。記者が会見で質問をして、即日炎上して、翌日には配置換えが決まるということが兵庫県では起きます。これをまた成功体験にして、ネットの人たちがこぞって兵庫県に集まってくると。兵庫県はそういう遊び場になっていると、私は思いますね」
この発言は、記者が質問したことに対するSNS上での誹謗中傷、そしてそれが自身の配置転換に繋がったという具体的な「経験」に基づいている。記者は続けて、斎藤知事の対応が県政運営に及ぼす影響について強く批判した。
「こうすることで記者が委縮して、職員や議員が委縮していくわけですけれども。斎藤知事が推し進めている風通しの良い職場づくりはそれで実現するんでしょうか。まともな県政運営に繋がるんでしょうか。いつも震源地にいるのは知事です。知事しかこの状況を変えられないと、私は思っています。なのに知事はこの状況を問題に思っているようにも、変えようと思っているようにも見えません。いつまでこんなことが続くのか、続けるのかと私は思っています」
記者の切実な訴えに対し、斎藤知事の反応は鈍く感じられた。知事はこの意見について、「いま現在ですね、週1回のこの定例会見については、今日もそうですけども、県としての発表をさせていただいて。その後、限られた時間にはなりますけども、質疑の方をできるだけ自分として、できることをさせていただいているというところですので。その点は私としても、対応させていただいてるというところは、ご理解いただきたいという風に思います」と述べるにとどまり、具体的な問題解決への言及は避けた。
繰り返されるパワハラ問題と斎藤知事の「真摯な受け止め」
斎藤知事を巡る問題は、今回に始まったことではない。今年3月には、内部告発文書を調査していた第三者委員会が、知事の言動10件を「パワハラ」と認定したと報じられた。直後の定例会見では、報道陣から「自らの処分は検討しないのか」という厳しい質問が寄せられている。
しかし、斎藤知事はこの際も「パワハラ認定は真摯に受け止め、不快に思われた職員さんにも謝罪しました」と説明しつつ、「私としては研修の実施など、自らの襟を正して風通しの良い職場をつくっていくことが私としての責任の果たし方だ」と自身の主張を繰り返した。具体的な責任の取り方や、県民への説明責任の果たし方については明確な回答を避ける姿勢が目立った。
兵庫県が進める誹謗中傷対策条例と知事の責任
斎藤知事の再選以降、兵庫県では知事の内部告発文書問題を調査していた百条委員会のメンバーに対して、SNS上で誹謗中傷が相次いでいたという。こうした事態を受け、県は今年5月、SNS上の誹謗中傷などを防止する条例案の素案をホームページで公表した。この条例案には、人種や性別などによる差別的な誹謗中傷を受けた被害者からの申し出があった場合、知事が被害者に代わって削除要請を行う規定も盛り込まれるなど、県として誹謗中傷対策に本格的に乗り出す姿勢を示している。
兵庫県知事時代の斎藤元彦氏が女性と笑顔で自撮り撮影に応じる様子。
しかし、県が誹謗中傷対策を進める一方で、斎藤知事自身の態度には疑問が呈されている。ある社会部記者は次のように指摘する。
「知事はネットの誹謗中傷は『してはならないこと』と述べていましたが、会見で誹謗中傷を止めるよう呼びかけることはありません。今回、知事に質問をして炎上したという記者の訴えにも、フォローをするような言葉はありませんでした。確かに記者が勤務する社内の配置転換に関しては、斎藤知事にとってあずかり知らぬことです。ですが自身の会見をきっかけに誹謗中傷が起きていることには、関心を寄せてもよいのではないでしょうか。知事といえば、毎週行われる定例会見で『ご指摘は真摯に受け止める』などと繰り返すばかりで、記者からの質問に真正面から答えないのが恒例です。そうなると、記者も同じ質問を何度も投げかけざるを得なくなります。会見の視聴者のなかには『知事がマスコミから責められている』と捉えてしまう人もいるようで、SNSに記者の批判が書き込まれることで炎上してしまうものと思われます。せめて斎藤知事から『記者を攻撃するようなことは控えるように』との呼びかけがあれば、状況もまた違ったものになるのではないでしょうか」
この指摘は、知事の紋切り型の回答が、結果として記者への批判を助長し、言論の自由を委縮させる一因となっている可能性を示唆している。
まとめ:問われる知事のリーダーシップと県政の未来
今回の定例会見で語られた記者の「私見」は、SNSのX(旧Twitter)でも大きな話題となり、「何このゾッとする話。ただただ怖い」「まずは記者の安全が守られてほしい」「何も響かないんですね元彦には…」といった、兵庫県政の現状と知事の姿勢に対する厳しい声が多数寄せられている。
斎藤知事を巡る一連の「異常事態」は、単なる地方政治の問題に留まらず、情報公開、言論の自由、そして行政のトップが果たすべきリーダーシップのあり方について、私たちに重い問いを投げかけている。県が誹謗中傷対策を推し進める一方で、その発端ともなり得る知事自身のコミュニケーションのあり方が問われ続けている。兵庫県政の風通しと信頼を取り戻すためには、斎藤知事がこの状況に対し、より真剣に向き合い、具体的な行動を示すことが不可欠と言えるだろう。
参考文献
- 斎藤元彦兵庫県知事に続く「異常事態」記者の“異例の私見”に鈍い反応…「風通しの良い職場」実現は遠いのか (Yahoo!ニュース)