大阪市西成区にある「やまき介護すてーしょん」内で運営されてきた訪問介護事業が、経営元の社会医療法人山紀会(山本時彦理事長)により6月末に閉鎖を強行されました。これに対し、同事業所の介護職員で構成される労働組合「ケアワーカーズユニオン山紀会支部」(全国一般全国協 福祉・介護・医療労働者組合山紀会支部)は強く抗議。7月10日午後1時からは組合員3人が指名ストライキを実施し、同時に事業所前と山紀会の法人本部前で支援集会を開催しました。この問題は、利用者の生活に深刻な影響を及ぼしており、法人側の対応が社会的な関心を集めています。
閉鎖強行と組合の行動
訪問介護事業の突然の閉鎖は、利用者にとって極めて大きな打撃となっています。現場の介護職からは、「訪問介護が閉鎖されたことで、施設に入所した利用者がご飯を食べなくなり、どうしたらいいかと施設から相談の電話があった」「ヘルパーが代わったことで体調を崩し、入院や入所を余儀なくされた利用者がいたことを、医師である理事長は理解していない」といった切実な声が上がっています。
7月10日の集会当日、猛烈な炎天下にもかかわらず、利用者や支援者約30人がスト開始の30分前から現場に集結しました。訪問介護管理者だった中尾さおりさんやデイサービス管理者の志賀直輝さんなど、現場を支えてきた組合員たちが、利用者の苦境を訴える渾身の叫びを街頭に放ちました。事業所前には猛暑対策のテントが設営されましたが、法人側の管理職によって支援者は敷地外へと排除される一幕もありました。その後、法人本部前でストライキ宣言が読み上げられ、要望書が提出されました。さらに、事業所では施設利用者も交えながら“ストライキかき氷”を楽しむなどして交流を深め、「この場所をなんとか守ろう」「団結頑張ろう」と連帯の気勢が上げられました。
2024年7月10日、大阪市西成区の「やまき介護すてーしょん」前で、訪問介護事業閉鎖に抗議するケアワーカーズユニオン山紀会支部と支援者らの様子
「やまき介護すてーしょん」はこれまで、経済的に困窮している利用者や、家族からの支援が少ない利用者も積極的に受け入れてきた実績があります。
組合結成の経緯と法人側の弾圧
一方で、「やまき介護すてーしょん」ではハラスメント行為が多発するなど、職場環境の改善が長年の課題となっていました。こうした状況を受け、2013年には労働組合が結成され、これまで社会活動に縁がなかった女性職員も多数が組合に加入しました。しかし、法人側はこれを警戒し、組合活動を監視するため同事業所に施設長を配置。施設長が職員との会話を秘密録音するなど、監視行為を続けていたとされています。
2014年には事業所内のケアプランセンターが閉鎖され、法人からの利用者紹介が激減しました。特に訪問介護では、法人からの紹介がほとんどなくなり、経営難に陥りました。労組側は事業の安定化を図るため、「西成区・住之江区介護事業所交流会」を運営し、他事業所からの利用者紹介に努めましたが、法人側はこれも業務として認めませんでした。さらに、コロナ禍においては感染対策に集中するため労組が求めた労使紛争の一時停止も拒否。組合活動を理由に二度の懲戒処分や損害賠償請求訴訟を起こすなど、組合への圧力を強めてきました。
府労働委員会命令の無視と閉鎖の強行
労働組合は、これらの不当な行為に対して大阪府労働委員会に救済を申し立て、これまでに10件中8件で不当労働行為として法人への改善命令が出されています。しかし、法人側はこれらの命令にもかかわらず、2023年には管理者の一時金や定期昇給の評価を引き下げるなどの報復措置を取り、そして今年6月末、ついに訪問介護事業の閉鎖を強行しました。今回のストライキは、組合にとって文字通り苦渋の選択でした。
今回のストライキにおいて、労働組合が法人に突きつけた要求は以下の3点です。
- 訪問介護閉鎖への断固たる抗議と、団体交渉への理事の出席要求。
- 法人内で発生したとされる利用者の生活保護費の横領や架空請求事件の真相究明。
- 12年間にわたる組合潰しに対する抗議。
志賀直輝さんは「山紀会は社会医療法人であり、公益性が高く税制優遇を受けているにもかかわらず、不当労働行為に加えて説明責任を果たさないのは、憲法や労働組合法を無視した労働者への人権侵害であり、利用者への不利益な取り扱いだ」と憤りを露わにしました。また、障がい者ヘルパーの久保田順哉さんは、大阪府労働委員会の改善命令に法人が向き合わない現状について、「命令の効力が弱いのも問題だ」と指摘しています。
結論
社会医療法人山紀会支部による今回の闘いは、労働者や利用者の権利を守るべき行政や法制度の脆弱性を浮き彫りにしました。この問題は単なる労使紛争に留まらず、公共性の高い医療・福祉サービスにおける企業の責任、そしてそれを監督する社会システムのあり方そのものが問われる、より広範な社会問題として認識されるべきです。
引用元:Yahoo!ニュース
白崎朝子・介護福祉士