かつては「異常」とされた猛暑、豪雨、豪雪といった極端な気象現象が、いまや毎年のように日本列島を襲い、私たちはすでに「異常気象が普通になった時代」に突入しています。この劇的な変化の背景には、地球温暖化を加速させる二酸化炭素の増加が深く関わっています。もし私たちがこの問題に無関心なままであれば、未来は“気候の地獄”へと変貌してしまうかもしれません。
三重大学大学院生物資源学研究科の立花義裕教授は、著書『異常気象の未来予測』の中で、日本が「世界一異常気象が発生する国」になってしまった現状を鋭く分析しています。この著作は、四季が失われ、夏と冬だけの「二季の国」と化した日本の姿に対し、私たちはどう向き合うべきかを問いかけます。本記事では、異常気象のメカニズムから未来予測、そして温暖化対策までを多角的に解説した同書の一部をご紹介し、日本の気候変動の実態と私たちの課題に迫ります。
「四季の国」から「二季の国」へ:日本の気候変貌
現在、日本にはかつて明確であった「四季」がなくなり、長い夏と冬だけの「二季」となりつつあります。この気候の変化は、日本に住む多くの人々が日常的に感じている現実でしょう。日本は1000年以上にわたり、四季の移ろいを愛でる文化が深く根付いてきましたが、今やその「四季の国」であることを誇れなくなっています。激しい異常気象が常態化した「二季の国」こそが、現在の日本の姿なのです。
気候が「ニューノーマル化」し、予測不能な様相を呈するようになった現代の「四季」の移ろいを概観すると、その変化は明らかです。
記録的な猛暑の常態化
近年は、「観測史上最も暑い」春や夏がほぼ毎年繰り返される傾向にあります。例えば、2024年の日本の平均気温は史上最高記録をあっさり更新し、春、夏、秋の三季にわたり「統計開始以降の最高記録」を更新し続けました。11月に入っても各地で夏日が観測されたことは、記憶に新しい現象です。
桜が散るとすぐに暑くなり、梅雨入り前から30度を超える地域が多発。ようやく梅雨が明ける頃には、同時に猛暑が日本列島を襲います。40度超えの気温もはや大ニュースとはならなくなり、夜になっても気温が下がらず、涼しい夜に花火を楽しむような時代ではなくなりました。花火大会の最中に熱中症で搬送されるニュースも珍しくありません。
記録的な猛暑日、北海道帯広市JR帯広駅前に設置された温度計が最高目盛りを表示する様子
9月になっても、10月になっても暑い日は続きます。過ぎゆく夏を惜しむどころか、残暑に苦しむ人がほとんどです。10月には小・中学校の運動会が恒例行事として行われますが、その練習時期は「真夏」の9月です。近年は春に運動会を開催する学校も増えていますが、練習中の子供たちの熱中症が常に懸念されています。
夏の屋外での作業も極めて危険なものとなっています。日本では熱中症によって毎年1000人規模の人々が命を落としており、この数字は風水害による死亡者の約10倍に及びます。夏の気温が高い年ほど熱中症による死亡者数は増加しており、「隠れ熱中症」による死亡者はその数倍に及ぶと指摘されています。基礎疾患を持つ人や高齢者ほど、命の危機にさらされる状況です。この状況は新型コロナウイルスが誘因となった死亡者数と類似しており、猛暑はもはや「災害」と言い切っても過言ではありません。この「殺人的猛暑」は、私たちの生存を脅かす深刻な問題となっているのです。
人智を超えた豪雨災害の頻発
異常気象という点で言えば、雨もまた日本各地で猛威を振るっています。降れば記録的な豪雨となり、晴れれば猛暑が襲うという、気象の「二極化」が顕著に進んでいるのです。雨量だけでなく、降る場所にも異常が見られます。かつて豪雨の「本場」とされてきた九州だけでなく、これまで雨が少なかった東北地方でも未曽有の豪雨が頻発するようになりました。
さらに、関東地方の人々を悩ませているのが、局地的な「ゲリラ雷雨」です。2024年には、関東地方での落雷発生数が観測史上最多を更新し、都市部での突然の豪雨による浸水や交通網の麻痺が日常的に発生しています。これらの現象は、従来の気象予報や防災体制では対応しきれない、新たなレベルの災害を示唆しています。
異常気象と向き合う日本の未来
日本は、地球温暖化の影響により「四季の国」から「二季の国」へと変貌し、猛暑と豪雨が常態化する新たな気候の時代を迎えています。立花義裕教授が指摘するように、これらの「異常」が「普通」となった現状は、私たちの生活様式、文化、そして安全保障そのものに大きな影響を与えています。殺人的猛暑による健康被害、予測不能な豪雨によるインフラへの打撃は、すでに深刻な社会問題となっています。私たちは、この避けられない気候変動の現実を直視し、専門家の知見を借りながら、未来に向けて具体的な対策と適応策を講じていく必要に迫られています。
参考文献
- 立花義裕『異常気象の未来予測』 (SBクリエイティブ)
- 三重大学 大学院 生物資源学研究科